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刻み込まれた切なさ ~ ホルスト・ヤンセン展2006年01月05日 21時31分29秒

ホルスト・ヤンセンの版画を見たのは、昨年のことでした。鮮烈でエロティックな描写に印象を受けたことを覚えています。彼の回顧展が八王子で開かれていると聞いて早速出かけてみることにしました。

ホルスト・ヤンセン展

彼は第二次大戦前(1929)のドイツ・ハンブルグに生まれます。ハンブルク美術学校に入学して、師でもあるアルフレート・マーラウに「デューラ以来の素描家」と言わせるほどの技術を持っていました。また、1学年上に幻想的絵画のパウル・ヴンダーリヒから銅版画を学んでおり、素描と銅版画の作品を数多く残しています。

赤い瓶の中
ホルスト・ヤンセン「赤い瓶の中、1972」

彼の父親は判らず母親も14才の時に他界し、戦争へと時代が進んで行きます。それを反映しているかのように彼の素行は乱れて暴力事件などを起こし学校を追われることになります。そして、彼の中にグロテクスクと美という観念が形成されていくのでした。

展覧会では、彼の素描、銅版画を中心に初期の木版画、北斎を神格化して追い求めていった晩年の水彩画とバラエティ豊かに展示されています。最後に参考として、復刻版(アダチ版)の北斎の版画も展示されており良く考えられていると思います。

ヤンセンは、1968年にヴェネチア・ビエンナーレの版画大賞を受賞して国際的に認められます。しかし、彼はそれを快くは思っておらず、むしろ嫌悪感を持っていたそうです。それを誇示するかのように彼はその生涯を故郷のハンブルクで過ごしています。

彼は多くの自画像を残しているのですが、さまざまな構図、色彩を使っていました。レンブラントを意識した作品もありましたが、何処となく自分をあざけ笑うかのような、自問自答をしているような表情が印象的でした。

作品に問いかけをすると「おまえに俺の作品が判るはずがない・・。そうか・・まあ、ゆっくり見ていってくれ。」そんな言葉が聞こえてくるような気がして、彼の怒りや寂しさ、そして優しさが伝わってくるように思えました。

エロティックな作品や性をテーマにするものは、70年を過ぎた頃から増えてきます。細身の女性が怪しげにそして死神を明示させるような人物と絡み合い、落ちるところまで落ちるような人の運命を描いています。銅版画の冷たい線が、その黒と合間って凄みが伝わってきます。

蜜やか
ホルスト・ヤンセン「蜜やか、1975」

ヤンセンは、北斎をこよなく愛したそうです。版画という共通点を持つということに留まらず、北斎の人生にも深く共感していたようです。たからか自らを「画狂人」と称していたようです。彼は、日本についてどんなイメージを思っていたのでしょうか?

ドイツは日本と同様に敗戦国で戦後に国家分断、ベルリンの壁、東西冷戦と近代史の影の部分が色濃く残っていました。その中でヤンセンは、「画狂人」として生き、人々をどのように思い、何を感じていたのかとても気になってしまいます。

※八王子市夢美術館

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