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ノアール ~ 長谷川潔展2006年01月22日 14時21分01秒

横浜からフランスに渡った銅版画家・長谷川潔、マニエール・ノアールを復活させフランスの文化勲章も受賞している人ですが、日本での評価はその当時はいまひとつだったようです。

長谷川潔

几帳面な性格が作品からにじみ出ているようです。彼の作品は、静物を描いたものが多いのですが、特に植物に対しては正確な写実さが見てとれます。モノクロの銅版画は、独特の精神世界を表現していてすんなりと理解することはできません。

目に見えるもの世界の先に目に見えない世界を見ると哲学的な思想をもっていて、漆黒の世界に配置された植物、鳥、道具、おもちゃとそれぞれに何かを暗示させています。

作品は、フランスで復活をさせたマニエール・ノアールの銅版画を中心に渡仏前の木版画、水彩、油彩、デッサンや雑誌の表紙の原画などをおりまぜたもので単調にならないように工夫されています。

仮装したる狐
長谷川潔「仮装したる狐(フィンランド童話)、1965」

マニエール・ノアールは、別名メゾチントといって北村薫の小説『ターン』の中に出てくる主人公の版画家がメゾチントを使っていることで、だいぶ前から気になっていました。『ターン』は、主人公が交通事故にあい気がつくと、たった一人で同じ時間、同じ世界を何度も繰り返しそこから生還しようと試行錯誤して行くストーリーです。

同じ時間を繰り返すこと、永遠と言うのでしょうか? マニエール・ノアールことメゾチントからは、そんな雰囲気もあるような気がします。小説と版画の共通点は技法だけですが、不思議に他の共通点を探っている自分に気がつきました。折りしも外は雪が降っていて、雪によって音が消されていくような感じと黒の静寂感が美術館を包んでいるようでした。

※横浜美術館