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昭和ノスタルジー ~ 木下孝則展2008年04月14日 20時12分59秒

みなとみらい地区も高層の商業施設やマンションが次々に出来上がり、低層の横浜美術館はその影に隠れる箱庭になってきたように思います。市民の文化施設との役割をはたすかのように、地味な展覧会が続きますが、なかなかおもしろい作品を多く紹介していると思います。

横浜美術館

今回もまた地元横浜に縁のある画家「木下孝則」を紹介しています。彼は、大正から昭和にかけて活躍した正統派の洋画家といえます。フランス留学の経験もありますが、写実を中心に活動を行ないプロレタリア美術運動やシュルレアリスムの影響も受けていきます。

佐伯祐三らとともに「一九三〇年協会」を作り積極的に発表をしていくのですが、前衛的な作品が台頭してくると会を脱退して、写実に戻ることで独自の世界観を作っていったようです。作品の解説にもあったのですが、昭和の時代を感じさせるノスタルジックな光景が作品から伝わってきます。

横浜美術館

展覧会は、ベイシックな回顧展であるため初期の作品から晩年に至るまでを一定のボリュームを持って紹介しています。写実に徹底する感じが初期の作品からも伺えます。人物が中心でありどことなく「藤島武二」の作品に近い印象を受けます。人物を描く光と影の使い方がとても丁寧です。

途中から気付いたのですが、彼はとても美しい人が好きなようです。細身でしなやか、そんな感じの人物を多く手がけています。その中でも特に印象に残るは、『M君像』という作品です。描かれている人物の妖しさとM君というキーワードからモデルが美輪明宏であることが判ります。テーブルに腰掛、カードを並べる姿がとても美しいです。

木下孝則展
木下孝則「M君像、1956」

人物を描く画家は、花もまた愛しているようです。最近では、スタイリッシュに改良されたバラが花屋にならんでいますが、彼の描くバラは古いタイプの大輪のバラです。その存在感に圧倒されるさることながら、彩りも鮮やかにすばらしいです。

木下孝則展
木下孝則「バラ、1960年頃」

また、商業的な作品も多く手がけているようで、週刊誌(週刊朝日)の表紙を飾っていたころもあったそうです。身近なところで活躍していたようですが、なかなか気がつかないものです。しかし、確かにそこに昭和があったような気がします。

横浜美術館
※横浜美術館

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