Asagi's Art News





哲学的な問いかけ ~ 建築はどこにあるの?2010年05月27日 23時29分49秒

建築家の展覧会は、独特な雰囲気があり見逃したくないものです。東京オペラシティなどでは、建築の作品を扱った企画を良くやっていますが、、東京国立近代美術館ではなかなか無い企画だと思います。どのようなものになるのか、とても楽しみで早速出かけてみました。

建築はどこにあるの?

日本を代表する7組の建築家が、インスタレーションを用いて建築を表現するとのことです。伊東豊雄、鈴木了二、内藤廣、アトリエ・ワン、菊地宏、中村竜治、中山英之…このメンバーが、「建築とは何なのか?」を問いかける仕掛けです。哲学的な問いかけですが、まず作品を楽しむことにします。

最近の傾向として、インスタレーションの展覧会では、一定の条件を満たせばカメラ撮影を認めことが増えてきました。とても良い傾向であり、ルールを守りながら新しい鑑賞のスタイルを作って行きたいと思います。さまざまな見方が、さまざまな発見を導いてくれます。誰かに、こう見るべきと押し付けられるのはお断りです。

建築はどこにあるの?

美術館の入口、ミュージアムショップの横には、アトリエ・ワンの「まちあわせ」という作品があります。竹をメインに使用して動物の形にしています。動物の下にベンチを設置してあり、そこから作品を見ることもできます。子供に気に入ってもらえそうな、唯一の屋外作品です。

竹という素材は、とてもしなやかです。日用品などにも使用されることから安心感があり、竹が組み上げられていることから家を想像することが出来るのような気がします。高く大きくなっても圧迫感を感じないのは、竹と人の良い関係があるからだと思います。

建築はどこにあるの?

館内に入りるとすぐに、中村竜治の「とうもろこし畑」が行く手を塞ぎます。この作品は、理科の授業で使った分子模型を巨大にしたよう感じで、物質の中にトリップしたようにも思えます。ひとつひとつは小さく規則正しい格子ですが、それが果てしなく続き積み上げられています。

いろいろな角度から眺めていると、古めのSF映画を見ているような、現在とは違う近未来の世界にいるような感覚になってくるのがおもしろいです。素材は、バルカイナイストドファイバーという紙とのことですが、とても堅そうにみえました(良く判りませんがカラス繊維が含まれているのかも…)。

建築はどこにあるの?

隣に中山英之の「草原の大きな扉」という作品があります。電話ボックスぐらい木の株に扉がつき、その中は白く塗られ小さな家具(椅子や机)があります。周辺にも同じような家具が配置されています。作品の相乗効果だと思いますが、突然、体が大きくなったような錯覚になるのが楽しいです。

建築はどこにあるの?

目を奥に向けると、鈴木了二の「物質試行51 DUBHOUSE」という、人の進入を拒絶した家をみることができます。実際の家と同じような大きさで出来ていますが、とても窮屈な感じがします。横に引き延ばされて、上からつぶされた…居心地は最悪となるでしょう。何のための作られているのか? 何ものなのか? この展覧会のテーマそのもののようです。

建築はどこにあるの?

次の作品は、入口に暗幕があり中が暗いことが伺えます。内藤廣の「赤縞」は、広いスペースに天井から赤色レーザーを使って、赤い光の縞を作ります。人や物が移動していくと、赤い光の縞がワイヤーフレームのような見え方をしてきます。コンピュータ画像の中に入ったような感覚でしょうか。

ただレーザー光が照射されているだけで、そこに何もなければ静を感じることができます。しかし、そこに移動していき自分や誰かの姿を見つけると空間が現れ激しい動を感じることができます。

建築はどこにあるの?

暗闇を抜けると菊池宏の光と影の世界「ある部屋の一日」に切り替わります。朝、日が昇ると辺りが明るくなります。太陽が移動することで、影は向きと形を変化させます。そして、夕方になると日が沈み、次の朝へと移り変わっていきます。

作品は、中心に建築模型をおいて周りを太陽の代わりをする光源が廻るものと、スクリーンに窓の日差しを思わせるビデオ映像の2つから構成されていました。外から見た風景と中から見た風景をイメージしてるのかもしれません。少しノスタルジックな感じのする作品です。

建築はどこにあるの?

最後は、伊東豊雄の「うちのうちのうち」です。フラクタルのようにどこを切り取ってみても同じ形をしています。ひとつひとつが家ならば、どこをみても家が存在することになります。無限に小さく、無限に大きく広がっていくのです。…何だか宇宙につながっているのかもしれないと思ってしまいます。

さて、どの作品も展覧会のテーマである「建築はどこにあるの?」を上手く表現しています。ここにあるような気がする…これは何だろうと、いろいろ考えながら作品に触れていくのは楽しいです。また、現実的な建築である美術館の中で、現実にはあり得ない建築を体験することはとても貴重です。

展覧会のテーマの答えは、ひとりひとり違うものになると思います。そして、展覧会で紹介された作品の一部は、既にどこかで建築の一部として実現されていると思うと、やはり実際に会ってみたい衝動が湧いてきます。だから、建築はおもしろいのだと思うこの頃です。

※東京国立近代美術館(2010年4月29日~2010年8月8日)