Asagi's Art News





その先に行こう ~ 会田誠展 「絵バカ」2010年06月01日 00時43分10秒

展覧会のタイトルに、センスが光ります。とてもインパクトのあるタイトルで、誰もが振り向くことで成功してると言えるでしょう(会田はパクリだと言っていますが)。場所は市ヶ谷の小さなギャラリーですが、ディープなファンがたくさん集まっていました。

会田誠

ギャラリーの扉をあけると、まず目に入るのが『よかまん』というビデオインスタレーションです。東京藝大伝統の「よかちん」の女性版になります。「よかちん」の説明は省きますが、単に裸になりたがる人たちのお座敷芸のひとつです。

いつものようにいろいろと企みが伺える作品ですが、インスタレーションに登場する彼女たちは、実演前に藝大の学生であると宣言してから、「…よかまん、まん」と連呼していました…やれやれ。

今回の新作で注目なのは、会田自身が人生史上最多の描写量と言っている『灰色の山』です。3×7mの大きさに中にサラリーマンの朽ち果てた姿をいくつもいくつも描き込んで、遠目に山の風景となるように構成している作品です。重なりあったサラリーマンは、皆同じようなスーツやワイシャツ姿で…何かの墓場のようにも思えます。

会田誠
会田誠「灰色の山、2009」

石田哲也の作品に近い感覚を覚える空虚感が、いままでの会田の作品とは違うような感じがしました。作風は異なりますが、構成的には加山又造の「月光波濤」のような広がりを持っているように思います。

破天荒な作品で注目されますが、常に日本人である自分と向き合っているような感じがします。そして、日本人であることの強みを世界にむけて発信することで「その先に行こう」と呼びかけているようで、こちらもそれに応えたくなります。

※ミヅマアートギャラリー(2010年5月6日~2010年6月5日)

レジェンド ~ 井上雄彦 エントランス・スペース・プロジェクト2010年06月06日 22時30分06秒

別の展覧会に出かけていった東京都現代美術館だったのですが、「井上雄彦 エントランス・スペース・プロジェクト」が延長されていて、噂の巨大な武蔵に会うことができました。美術館のいちばん奥、ちょうど常設展入口前の壁のところにあり、遠くからでも良く目立つ作品です。

井上雄彦は、「スラムダンク」「バガボンド」などのヒット作が続く人気の漫画家です。この武蔵を描くに対しては絵画としてではなく、あくまでも漫画にこだわると言っているところが興味深いところです。

武蔵と言えば吉川英治の「宮本武蔵」です。この小説によって一般的な武蔵のイメージができあがってしまっています。そこに、漫画である「バガボンド」が登場することになります。広まってしまった武蔵のイメージを上書きすることは難しく、新たな形にするには計り知れない苦労があったように思います。

この武蔵は和紙に墨を使った作品です。広い空間に一点を見つめて立ち尽くし、剣豪の悟りの世界を思わせる美しい姿をしています。実在した人物ですが、すでに別の世界の人物になってしまっているようです。この国を震撼させたレジェンドとして・・・

※東京都現代美術館(2009年10月31日~ 2010年6月20日)
※FLOWER

新たな進化の創造 ~ フセイン・チャラヤン展2010年06月08日 00時07分10秒

あいかわらず東京都現代美術館の当日券は、素っ気ないプリントアウトで、半券のコレクターからすると実につまらないものです。合理的とか、エコロジーとかを引き合いに出せば成立するかもしれませんが、これもひとつの芸術であり、非合理的で、反エコロジーでも良いと思います。しかし、このスタイルこそが芸術であると言われると…

そんなことは良いとして、今回の展覧会は、ファッションシーンで知名度のあるフセイン・チャラヤンのインスタレーションが展開されるとのことでした。ファッションの世界は、商業ベースで流行(モード)として動いていることもあり、芸術として捕らえることはあまりないと思われます。

フセイン・チャラヤン

ファッションの中には、深く考え抜かれた芸術性や問題を投げかけるメッセージ性を多く持っています。ただ、表現するものが、人の身にまとう衣服であることからバリエーションも多くなり、衣服よりも手にした人たちの方に注目が集まってしまう傾向にあります。

今回のフセイン・チャラヤンの作品は、生身のモデルではなくマネキンが身にまとっています。そのため、作品に対してより注意深く接することができます。動きがないので、じっくりと細部を観察できるのです。また、コンセプトごとに空間が演出されていることもあり、彼の世界に引き込まれるようです。

個々の作品についての感想もあるのですが、全体として思ったことがあります。例えば、身に着ける衣服の多様性は、形や素材を限定しないのです。そして、見据える未来の距離によって、それらは複雑に形が変化していきます。

現在、人は、地球上における理想の形に進化したと言っても良いと思います。学者たちは更なる人の進化を予測しますが、劇的な環境などの外的な変化がなければ、今後大きな進化は期待できないと思います。

だからこそ人の進化は、自らが造りだす衣服が鍵を握っているのかもしれません。衣服は、人の造り変えることなく異なる生命にすることができるように思います。ファッションとして人が衣服を身につけることによって、新たな進化の創造がはじまるのです。

※東京都現代美術館(2010年4月3日~2010年6月20日)

棘を隠す ~ 話の話 ロシア・アニメーションの巨匠 ノルシュテイン&ヤールブソワ2010年06月10日 23時04分35秒

ユーリー・ノルシュタインの展覧会は、4年ぶりの開催になります。今回は、数多くの原画やガラスに切り絵をして重ねるマルチプレーンの展示がメインとなっています。葉山という不便なところにある美術館ですが、電車とバスを乗り継いで出かけて来ました。

話の話


旧体制のロシア(ソビエト連邦)においては、自由に表現を行うことはできません。しかし、表現する本質を何かで包み込んで、簡単には判らなくしてしえば可能となります。これは、ロシアを拠点に活動してきた芸術家の多くが試みたことで、誰もがそれを良く心得ていました。

ノルシュタインはヤールブソワと組んで、アニメーションを武器に本当に伝えたいことを発表してきました。それは、昔からの民話や可愛らしい動物を登場させて、棘を隠すことで世の中に問いかけをするのです。

独特の雰囲気を出すマルチプレーンの技法を開発したことも、棘を隠すことに一役買っていのです。マルチプレーンは、いま話題となっている3D技術と同じように、アニメーションに奥行きを持たせることができます。また、何層に重なるガラスにより画面をよりソフトすることができます。

『話の話』は、もう何度も繰り返し作品を見ていますが、隠された棘の全てが判ったわけではありません。古い言い伝えや教訓と解釈することもできますが、当時のロシアの社会情勢と重ねていくと単なるおとぎ話にはならないはずで、もう少し知識を増やす必要があるようです。

しかし、戦争に加担すること、強欲に溺れる者、それらは、恐怖、怒り、あきらめなどネガティブな印象を与えます。そして、やがて訪れるソビエト連邦の崩壊を暗示しているのでしょうか…。とても奥の深いことであるような気がします。

ノルシュタインは、日本についてはとても好意に思ってくれています。彼の作品に松尾芭蕉が登場する『冬の日「狂句 木枯らしの身は竹斎に似たる哉」 』があります。これは、俳句の世界の一場面を少し明るいタッチで表現しており、ロシア時代の作品とは少し違うようです。

現在の日本では、商業的なセルアニメーションばかり注目されています。軽く伝えるべきものの少ない作品を消費してる感じを受けます。本来あるべきアニメーションの力を、彼の作品を通して知ってほしいと思っています。そして、まだまだ彼は現役ですから、すばらしい作品を作り続けてほしいと思います。

※神奈川県立近代美術館 葉山(2010年4月10日~2010年6月27日)

メタリックに輝く彼女たち ~ 空山基展2010年06月13日 15時10分54秒

ソニーから発売されたAIBOというペットロボットを憶えているでしょうか? 近未来的で斬新、それでいてキュートでおちゃめなデザイン、高額な値段設定にも関わらず大ヒットをしました。そのAIBOのデザイナーが空山基です。白金台にあるギャラリーの集合ビルの中、彼の個展はひっそり開かれていました。

空山基は、もともと90年代にSF映画に出てくるようなコスチュームと妖しくセクシーな女性のイラストを中心に活躍していました。メタリックに輝く彼女たちは、バブルの時代背景からも躍動感を感じられました。

作品の多くは、ネットや雑誌に紹介されていますが、実物と出会うのはこれが初めてでした。スーパーリアリズムと言うべき作品は、CGとは違い筆跡やスプレーだと思うのですが細かい点がはっきりと判ります。それが、とても暖かみを持っていて、クールな場面でもその想いが伝わってくるように思いました。

最近の作品の展示はなかったように思いますが、歴代の代表作が揃っていて良かったと思います。エロチックな描写もあるので、すべての人には合わないかもしれません。そこもまた魅力のひとつです。時代が変わって来たことで、影響力は以前ほどはなくなってきたと思いますが、これからの新たな作品にも期待したいものです。

※NANZUKA UNDERGROUND(2010年5月22日~2010年6月19日)
※Hajime Sorayama Official Website
※AIBO Official Site

スラブ民族の誇り ~ アルフォンス・ミュシャ展2010年06月22日 00時04分37秒

大女優サラ・ベルナールのポスターを手掛けることによって、名声を手に入れたアルフォンス・ミュシャ。美しい女性とアールヌーボー様式のデザインは、現在でも多くの人に人気があります。彼のデザインにより扱われる商品は、いっそう気品を持ち高級感のあるイメージを持つのです。

ミュシャ展

展覧会に訪れている人たちも、やはり美しいパッケージデザインを興味深く眺めているように思いました。ある人は女性の表情に感激し立ち止まり、また、ある人は色彩の鮮やかさ作品の大きさに圧倒されているようでした。

たしかにミュシャのデザインは、美しく気品を持っています。しかし、それらの作品は成功を手にするまでのステップであり、彼が本当に描きたいものは次第に変わっていったようです。故郷を離れて活躍すればするほどに自分が描くべきものが見えてきたのです。

ミュシャはチェコ共和国に生まれますが、当時(1900年初頭)はオーストリア・ハンガリー帝国により主権が握られていました。もともとチェコは、スラブ民族により築かれた土地ですが、何世紀にもわたり他民族の支配を受け続けていました。人々は民族のとして誇りかろうじて保っていたのです。

不幸にも時代が少しずつ戦争と動乱に向かい進みはじめました。彼はスラブ民族の誇り、そして不遇にある故郷への想いを形したいと思ったことでしょう。商業的なデザインから、自身のルーツであるスラブ民族の歴史や人々を見つめていくものになるのです。

例えば、『少女の像』からは、過去の境遇を乗り越えスラブ民族として独立を勝ち取る決意のような眼差しを感じることができます。曇りのない瞳で凛とする少女は、未来の希望を見つめているのだと思います。いままでのような優雅さは、ありませんが人としての力強さを感じることができます。

ミュシャ展
アルフォンス・ミュシャ「少女の像、1913」

晩年のミュシャは、このような作品を精力的に残していきます。同時に祖国も不幸に巻き込まれていくのです。オーストリア・ハンガリー帝国からの支配を逃れチェコスロバキア共和国を建国したもののナチスドイツにより解体、ミュシャ自身も逮捕されしまいます。

この逮捕が原因でミュシャは、78年の生涯に終止符を打ちます。その後、彼の祖国はさまざまな政変を繰り返していきます。ミュシャは祖国が受ける苦悩を見越していたのかもしれません。だからこそ、スラブ民族の誇りと未来を願った作品を残していったのだと思います。

※三鷹市美術ギャラリー(2010年5月22日~2010年7月4日)

共に語り合う ~ 高橋真琴の夢とロマン展2010年06月30日 00時00分04秒

「少女画」とはあまり聞き慣れないのですが、高橋真琴の作品をそのように言うようです。高度成長期の日本において、絶大な人気を得た彼の描く少女は、当時の少女たちの傍にいつもいて共に成長してきました。

高橋真琴

高橋真琴を「彼」と言いましたが、実は男性であるとはあまり知られていなかったようです。初期の少女漫画は、手塚治虫、赤塚不二夫、ちばてつやなど多くの男性漫画家が描いていることから不思議なことではありません。

しかし、高橋真琴という名前の中性的なイメージと憧れの少女像に、作者が女性であると思っていた人も多いとのことです。もちろん、メディアへの露出もなく商業的な戦略もあったと思いますが、大人になってから高橋真琴が男性であること知った時には、それなりにショックがあったと思います…

今回の展覧会ですが、高橋真琴の初期の作品から最新作まで200点以上という大規模なものです。漫画の原稿であるため、サイズは小さいものが多いですが、色彩鮮やかな水彩の原画や製品化された文具などの展示もあり、彼の仕事の幅広さを感じることができます。

高橋真琴
高橋真琴「パリジェンヌ (B4スケッチブック 文具用イラスト:ショウワノート)、1975」

彼の作品に登場する少女は、常に正面を向きこちらを見つめています。これは、作品と共にいる少女たちと共に語り合うことを意識して、感情さえも伝えられるようにしているからだと考えられます。

例えば、展覧会のポスターにもなっている文具用イラストの『パリジェンヌ』もそうですが、特徴のある大きな瞳がこちらを見つめいます。楽しいときには喜びを分かち合い、さみしいときには優しく慰めてくる。眼ぢからとでも言うのでしょうか…現実の友人以上に近い存在となっていきます。

作風は変わることなく仏を掘り続ける仏師のように、いまも作成されています。時代が変わっても、その時代の少女たちの傍にいる。それが、彼の目指すところであり、けしてぶれることはないと思われます。

※八王子市夢美術館(2010年6月4~2010年7月4日)
※真琴るーむ