Asagi's Art News





秘密の暗号 ~ オルセー美術館展20102010年07月18日 20時53分04秒

国立新美術館には、既に40万人の来場者があったようでした。会期が長いとは言えかなりのハイペースで来場者が増えていると思います。もはや、休日の観覧はあきらめて平日にやって来ましたが、それでも混んでいたのには驚きました。

改装中のオルセー美術館からの大放出ということは、マスコミを通して告知されていました。混雑は予想の範囲ですが、ここ最近の大型企画展には、大勢の人がやって来るとしみじみ思います。もちろん、たくさんの人が興味を持つことは嬉しいことですが、もう少し冷静さも必要であるような気もしています。

オルセー美術館展

今回のオルセー美術館展は、ポスト印象派とのサブタイトルがあります。みんなが好きな印象派は少しで、後期印象派のゴッホやゴーギャン、ナビ派のドニやボナール、そして、あのアンリ・ルソーの大作がメインになっています。

美術の教科書に載るような有名な作品を数多く見れるのは、とてもラッキーなことです。オルセー美術館の館長ギ・コジュヴァル曰く「たとえオルセー美術館にやって来たとしても、このような作品を一度に見ることは出来ない」とのことです。

これは、作品への想いと輸送、管理体制が充実した日本ならではの特別な企画展といえます。もちろん、費用の面でもオルセー美術館には美味しいこととなるでしょうが…日仏友好の証として考えておきましょう。

展示内容もとにかく豪華なラインナップです。印象派のモネからはじまりますが、さりげなく『日傘の女性』があらわれビックリします。続けて、スーラの習作がずらっと並ぶのですが、スーラの作品がこんなにあるなんてあり得ない状況です。

オルセー美術館展
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック「赤毛の女(化粧)、1889」

セザンヌとロートレックは、渋い作品を集め落ち着いた雰囲気となっていました。それに、背中の美しいロートレックの『赤毛の女(化粧)』まであって、だんだんテンションが上がってきます。そして、ゴッホとゴーギャンとなるのですが、ここが中間地点になります。

後半は、変化を楽しむことができるナビ派や象徴主義の作品がメインになります。モローの『オルフェウス』は、彼の作品ではキャンバスサイズも最大級であり、緻密さに手抜きもなくサロンで絶賛されたことが良く判ります。

ドニとボナール作品はかなりの数で楽しめますが、やはり最後はアンリ・ルソーです。『戦争』と『蛇使いの女』の2作品と大判振る舞いをしています。いずれの作品もルソー独特の世界観で圧倒される美しさです。

オルセー美術館展
アンリ・ルソー「蛇使いの女、1907」

個々の作品の影響力を考えれば、○○とその時代展をたくさん企画できそうな勢いがあります。したがって、今回のオルセー美術館展は、ものすごく贅沢な企画展だといえます。しかし、今回の展覧会でお気に入りを1枚選ぶとしたら…あさぎはゴッホの『星降る夜』を選びたいと思います。

この『星降る夜』は、1999年の西洋美術館でのオルセー美術館展で出逢っています。もう11年もの月日が経つのですが、はじめて逢ったときと同じように感動的な夜空でした。印象派の光と影の調和を夜に再現する。ゴッホでなければ出来ない発想です。

オルセー美術館展
フィンセント・ファン・ゴッホ「星降る夜、1888」

深い青の画面に街の明かりと星の瞬きが印象的です。人の作った光と自然の光が同じように美しいことをゴッホは伝えたかったのだと思います。アルルの生活の中でゴッホが夢と希望を支えに描いた作品なのだと思います。それは、右下のカップルの姿からも伝わってくるようです。

夜空に輝く北斗七星は、遠い異国の北斎へのオマージュなのだと思います。そして、それは日本人にとってもゴッホを感じる秘密の暗号になります。時を越えて何度もこの絵は、ゴッホの憧れの国である日本にやって来ました。互いに惹かれ合う魂は、永遠に生き続けていくかもしれません。

※国立新美術館(2010年5月26日~2010年8月16日)