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美しい自然 ~ 府中市美術館開館10周年記念展 バルビゾンからの贈りもの2010年09月24日 16時07分38秒

武蔵野とバルビゾンの共通点は、農家を中心とした里山で人が手を加えつつ育てた自然があるということでしょうか? それが、バルビゾンで描かれた素朴な風景に、日本人が惹かれてしまう要因なのだと思います。

バルビゾンからの贈りもの

明治維新となった日本は、あらゆるものに西洋化の流れがはじまります。絵画の世界もその流れにのみ込まれ、新しい絵画表現を求め試行錯誤を繰り返します。一部の人は実際にヨーロッパに派遣され、多くのものを日本に持って帰ってきました。

展覧会では、そうした文明開化と共に伝えられた絵画の中から、バルビゾン派の作品を中心に展示をしています。また、バルビゾン派に強く影響を受けた日本人画家たちが、武蔵野の風景に注目したことも興味深いところとなります。

テオドール・ルソー(1812-1867)やシャルル=フランソワ・ドービニー(1817-1878)の自然主義は、19世紀のヨーロッパにおいても最新の絵画表現であり、やがて印象派へと発展していきます。だから、この最新の絵画表現は、とても刺激的であり日本で早く試してみたいという意欲を生み出したのだと思います。

例えば、その一人が高橋由一(1828-1894)です。武家の出身で狩野派など日本画からスタートしますが、ヨーロッパの絵画に出会うことで油彩をはじめることになります。もちろん、彼もバルビゾン派の絵画を見ているはずで、その影響は府中市美術館の至宝でもある『墨水桜花輝耀の景』にも表れているようです。

高橋由一
高橋由一「墨水桜花輝耀の景、1878」

但し、この作品には、人物ではなく桜が描かれています。ある意味とても日本的な解釈と考えるのが妥当であると思います。バルビゾン派は、それまで絵画の対象としていなかった自然に注目することが重要だったのですが、日本ではそう言った考えをする必要がなかったように思います。

したがって、美しい自然をより美しく見せるにはどうしたら良いのか? あるいは西洋の絵画技術をどのように展開させるか? といったアプローチだったかもしれません。いずれにしても、バルビゾン派の発展系としては、すばらしい結果が得られていて、ここから日本の近代絵画がはじまって行くのです。

※府中市美術館(2010年9月17日~2010年11月23日)