Asagi's Art News





究極のキャンバス ~ 曽根裕展2011年03月06日 23時25分20秒

彫刻家は、本来の石を刻むことの他に絵画や建築など多くの才能を有しているイメージがあります。若くして高い評価を受けている曽根裕(1965-)も、そうした彫刻家のひとりのようです。絵画はもちろんのこと、映像やインスタレーションなども作成するマルチなアーティストなのです。

ところで、彫刻家が異なる表現方法に挑む理由は、すべての知識と情熱を石に刻み込むためと考えることができます。彼らにとって、石とは究極のキャンバスであり、完璧な芸術であるのだと思います。古代ギリシアの職人から継承されているDNAなのでしょう。

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そのような意図があるかは判りませんが、展覧会のサブタイトルには 『Perfect Moment』とあり、作品の世界観が完璧な瞬間であることを示しています。しかし、『Perfect Moment』とは、いったいどのようなものなのでしょうか? ちょっと哲学的な要素を感じてしまいます。

曽根の彫刻は、美術の教科書に出て来るような人物や動物をモデルとするものでなく、建築や風景といったスケール感のあるものを選んでいます。表現は複雑になり、より細かい作業が求められます。たしかに、道具類が進化したと思いますが、精神的にもきつい作業だと思います。

石の囁きを受け取り、石の中から美を開放するのが彫刻家の仕事だと聞いたことがあります。彼の作品も同じような経緯をたどっていると考えると、ニューヨークの街を刻んだ『リトル・マンハッタン』も石の囁きから形になったのでしょうか…

『リトル・マンハッタン』は、長さ2m65cm、幅85cm、高さ55cm重さ1.4t と巨大です。地形を切り取ったような作品ですが、表面になる街の風景は繊細で丁寧に作られています。大理石の微妙な表情が街の姿を彩り、純白の世界に人の暮らしを再現しているようで驚きを感じます。そして、この驚きが彼の造った完璧な瞬間なのかもしれません。

※東京オペラシティアートギャラリー(2011年1月15日~2011年3月27日)