Asagi's Art News





目指すべき高い目標 ~ 白洲正子 神と仏、自然への祈り2011年05月01日 23時53分52秒

白州正子(1910-1998)のことをいまどきの言い方をすれば、セレブ(セレブリティ:Celebrity)になるのかもしれません。しかし、彼女は、激動の昭和においても断じて動じず、自分の信じる「美」について多くを語り残しています。

白州正子

少女時代に出会った「能」に、彼女の「美」の原点があると言われています。そうした日本の伝統の「美」の中から生み出された随筆は、アートブロガーのあこがれであり、目指すべき高い目標であると思っています。

出会った「美」に対してのするどい観察力、そして、感動を美しい言葉に置き換える技術は、アーティストと同じような評価をして良いと思います。今回の展覧会は、そのような意図も伺えるような構成であることから、かなり興味深いものとなっていました。

彼女は十一面観音に対する想いをいくつもの随筆で残していますが、彼女の言葉と実物の十一面観音を同時に鑑賞するのは、なかなか楽しいものでした。彼女は、仏はまだ人間の悩みから完全に脱してはおらず、それ故に親しみ深いと言います…人生のあり方を仏に見出していたのでしょう。

さて、作品の中で注目していたのが、日曜美術館でも取り上げられた奈良・松尾寺の「焼損仏像残闕」でした。もともとは千手観音であった仏像が火災によって焼け残ったものなのですが、これこそが真の仏の姿であり、ある意味到達した「美」を彼女が発見したのです。

白州正子
奈良・松尾寺「焼損仏像残闕(千手観音像トルソー)、8世紀」

今回、他の仏像と一緒に展示されているのですが、そこから放たれるオーラは強く、滑らかな曲線が、自然の秘められた「美」を引き出しています。破壊により作り出された姿は、誰もが感じるように抽象芸術の領域に達しているのです。

※世田谷美術館(2011年3月19日~2011年5月8日)