Asagi's Art News





試されている ~ レオナルド・ダ・ヴィンチ美の理想2012年06月02日 21時51分28秒

レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)の展覧会を企画するのは、かなりの覚悟がいるのではないかと思っています。作品数が少ないことも要因ですが、謎が多く観る側が常に試されているような感覚になるからです。

ダ・ヴィンチ

1911年の盗難事件がきっかけで、世界一有名になってしまった肖像画が『モナ・リザ』です。かつて日本にもやって来て、上野の森に長蛇の列を出現させたそうです。しかし、あの『モナ・リザ』は、本物だったのか? と都市伝説になるほど、私たちは常に試されるのです。

今回の展覧会も、問題となる作品がありました。『アイルワースのモナ・リザ』と言われる作品です。個人蔵でいままで正式な展覧会への出展はほぼないと言われています。ルーブル美術館の『モナ・リザ』よりも若く、ちょっと怪しい美人です。

ダ・ヴィンチ
「アイルワースのモナ・リザ、1503」

『モナ・リザ』が複数存在することは、諸説ありますが期待をこめて存在すると人の方が多いような気がしています。研究書から都市伝説のダブロイドまでいろいろな文献が存在します。そして、展覧会では、作品以外多くを語ることはありません。

『アイルワースのモナ・リザ』の真偽はどうでも良いと思います。この作品からは、オマージュの作品の間に展示されていたのですが、ちょっと怪しい雰囲気を持っていることは確かのようです。

ルーブル版の本物には会ったことはありませんが、口元よりも目元にポイントがあるのが『アイルワースのモナ・リザ』だと思います。ダ・ヴィンチのひねくれた感覚から考えると、あまりにもベタな目元にポイントを置くのは不自然にも思えます。

まったく、ダ・ヴィンチは困った人です。時を超えてなお人々を試すとは…、でも、それは、とっても楽しいことで、ワクワクする謎なのです。こんなに長い時間、多くの人を楽しませてくれるダ・ヴィンチに感謝したいです。ありがとう!

※Bunkamuraザ・ミュージアム(2012年3月31日~2012年6月10日)

『鮭』 ~ 近代洋画の開拓者 高橋由一2012年06月18日 22時53分03秒

この『鮭』を見たら、誰もが食べたくなる。そんな作品を残したのが、高橋由一(1828-1894)です。日本から離れることなく、ヨーロッパ最先端の油彩技術を習得して、以後の画家に多大な影響を与えた絵画のパイオニアなのです。

高橋由一展

そして、この『鮭』は、藝大が所蔵するとっておきの一枚でもあるのです。かつて、藝大のこけら落ちしにも、この『鮭』が登場して、多くの人たちに同じような感覚を与えました。でも、なぜこんなにも、この『鮭』は美味しそうなのか? 考えてしまいます。

高橋由一展
高橋由一「鮭、1877」

技法的は写実ということになるのですが、近くに寄ってみると細密に描かれるところや省略しているところがありした。現在の超写実のように どこから見ても細かいと言うわけではないようです。人間の目は、多少いい加減なところがあるそうで、しっかり見ているようで印象を感じている場合があるそうです。

すべてを細密に仕上げなくても、印象に残る壺を押さえることで、人の記憶と感覚を刺激することを、由一は判っていて実施しているようです。ヨーロッパの技術は吸収したが、日本人としての感性までは変化させなかったからなのかもしれません。

海外に出ることは、刺激的であり新しい感性を目覚めさせることも出来ると思います。しかし、それが出来なかったことが、日本人の心に響く作品を造る力になったのかもしれません。

※東京藝術大学大学美術館(2012年4月28日~2012年6月24日)