Asagi's Art News





”アートは何ができる?” ~ ひっくりかえる展2012年08月01日 00時53分30秒

彼の発言や行動に対して、世界が動きはじめています。彼の名前は『JR』…彼の作品はストリートアートなどと呼ばれいます。その作品は、世界の中でも貧しいとか、危険であるとか言われている街に行き、その人々の顔を大きく引き延ばした写真を街中に貼り付ける『The Hills Have Eyes』などで知られています。

彼に関する情報は少なく、フランス人で27歳ぐらいの男性である以外は、良くわかっていません。マスコミでも彼を取り上げることがありますが、彼が行っている本当のことまでは、伝えることは出来ていません。

ひっくりかえる

展覧会は『JR』のことも紹介していますが、むしろ彼の趣旨に近い活動をしてる日本のアートチーム『Chim↑Pom(チン↑ポム)』の作品をメインに構成をしていました。『Chim↑Pom』と言えば、岡本太郎(1911-1996)の壁画『明日の神話』に爆発した福島原発の絵を付け足したことで注目を集めた元気のあるアートチームです。

もちろん、『Chim↑Pom』は、その他にも日本社会のタブーに対して、ものを申すという姿勢で精力的に活動していています。チームメンバーは、エリイ、卯城竜太、林靖高、水野俊紀、岡田将孝、稲岡求の6人で、2005年から活動を行っています。

『JR』も『Chim↑Pom』も、その国における法律や体制に対して、かなりきわどいところを攻めていきます。その根底には、”アートは何ができる?”という単純な問いかけがあるように思っています。それは、自分自身への”何ができる?”という問いかけなのかもしれません。

ひっくりかえる

TED(Technology Entertainment Design)というネットで広がっている、その分野における第一人者によるプレゼンテーションの場があります。『JR』もまたアートという立場から、自らの信条や行動の趣旨(作品)を紹介して、大きな反響を呼んでいます。

”アートは何ができる?” その答えを彼は導き出そうとしているのです。世界は強大な権力や暴力によって支配されています。しかし、例えば『アラブの春』に見られるような行動が、世界に広がって来ています。それは、権力と反対側の人たちから、新しい扉が開かれることを意味しているのです。

日本でも反原発をきっかけに同じように新しい扉が開くのだと思っています。もちろん、権力側は激しく暴力を持って抵抗をしてくるでしょう。アートに関わるものは、”アートは何ができる?”を良く考えて行動するべきです。そして、権力と反対側の人たちに対して、メッセージを発信し続けなければならないのです。

※ワタリウム美術館(2012年4月1日~2012年7月29日)

深い神秘の森 ~ バーン=ジョーンズ展 -装飾と象徴-2012年08月06日 22時58分22秒

バーン=ジョーンズ(1833-1898)の作品は同じイギリスのロセッティ(1828-1882)に似ている印象があります。それは、ジョーンズがロセッティのもとで絵を学んでいたことがあるからだと思いますが、ラファエロ前派の思想やウィリアム・モリス(1834-1896)が提唱したアーツ・アンド・クラフツ運動によるものであるように思います。

バーン=ジョーンズ

しかし、彼の独特の画風が確立したのは、美術評論家であるジョン・ラスキン(1819-1900)たちとのイタリア旅行に依るものが大きいと言われています。マンテーニャ(1431-1506)、ボッティチェリ(1445-1510)、ミケランジェロ(1475-1564)の影響を受けたと言われているようです。

その時々で良い出会いがあったようで、それが作品に生かされているように思います。ロセッティが彼のことを「『夢の国』に住む一番素敵な若者の一人」 と称していることもうなずけます。

展覧会は、日本初の個展ということもあり、油彩画、水彩画、素描、タペストリなど、意欲的にさまざまな作品を紹介してくれています。また、三菱一号美術館という難しい空間を上手く利用した展示には、キュレーターのセンスが光っています。

バーン=ジョーンズ
エドワード・バーン=ジョーンズ「眠り姫、1872」

そして、いちばんの作品は、代表作でもある『「眠り姫』であり、まさに夢の国にいざなってくれます。誰でも知っている物語ですが、本来の世界感はこのようなものなのかと感じさせてくれます。イギリスの深い神秘の森に迷い込んだ感じです。

ハリー・ポッターなど映画によって、近代のイギリスのイメージが変わっていたのですが、やはり、この作品からも一新されたイギリスのイメージがより深くなった感じです。オリンピック中継に映るロンドンは都会ですが、ちょっと離れた郊外には、まだ神秘の森が広がっているのでしょうか…

※三菱一号美術館(2012年6月23日~2012年8月19日)

「絵を描くには勇気がいる」 ~ 猪熊弦一郎展 いのくまさん2012年08月12日 00時03分33秒

東京オペラシティでの『いのくまさん』(2010)を見逃していたので、ちょっと楽しみしていました。また、作品を貸し出している香川県の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館も、多くのメディアに取り上げられるようになるなど話題になっているもが嬉しいです。

いのくまさん

猪熊弦一郎(1902-1993)は、高松の人です。 東京美術学校(現東京芸術大学)洋画科に入学すると藤島武二(1867-1943)から指導を受けていたようです。まもなく帝展にも入選する実力を備えてフランスに留学、アンリ・マティス(1869-1954)を訪ねます。

しかし、第二次大戦が勃発して帰国となり、戦後は絵画以外にもデザインなども手がけいます。1955年にニューヨークに拠点を移し、マーク・ロスコ(1903-1970)、イサム・ノグチ(1904-1988)、ジャスパー・ジョーンズ(1930-)などとも交流を持ったそうです。

幅広い絵画手法や表現方法を身につけて、新しい表現の作品を制作していきますが、最愛の文子さんをなくした後は『顔』という作品のような自身の悲しみを形にするものに変わっていきます。

展覧会には、その顔シリーズもやって来ています。もちろん、その顔が文子さんであるのは判るのですが、さまざまな表情は彼の身につけて表現の集大成であるように思えるのです。悲しい気持ちや寂しい気持ちも伝わってきますが、画家として性のようなものも感じることができます。

いのくまさん
猪熊弦一郎「顔80、1989」

彼は良く「絵を描くには勇気がいる」と言っていたそうです。画家にとって、自身の画風を変えるにはとても勇気が必要です。特に一定の評価を得てしまった画家には深刻な問題だと思います。しかし、新しい表現に出会った時、挑戦したい気持ちもまた画家なのだと思います。ひとつの答えを見せてくれる…それが、『いのくまさん』なのだと思います。

※そごう美術館(2012年7月26日~2012年9月9日)

小磯コーナー ~ 第18回 秘蔵の名品アートコレクション展 東京美術学校から東京藝術大学へ 日本絵画の巨匠たち2012年08月20日 22時12分43秒

毎年恒例の秘蔵の名品アートコレクション展が、ホテルオークラ東京の別館アスコットホールではじまりました。企業が所蔵する作品が多数紹介される展覧会としても注目で楽しみにしています。ホテルならではのおもてなしの場での鑑賞は、とても心地の良いものです。

なお、チャリティイベントでもあって、「東日本大震災復興支援チャリティーイベント“アートで心をつなぐ”」との副題が付いており、小さい貢献になりますが何かの力になれればと思います。

秘蔵の名品アートコレクション展

今回の企画は、歴代藝大卒業生の作品を集めいます。例えば、黒田清輝 (1866-1924)の「婦人像」、横山大観 (1868-1958)の「村童観猿翁」、東山魁夷(1908-1999)の「悠紀風俗歌屏風」など、なかなか見ることの出来ない作品に出会うことが出来ます。また、秘蔵の藝大卒業生の自画像の展示も実現しています。

ここ最近は、洋画と日本画を混在させる展示をしています。また、大きな屏風など迫力のある作品も見やすさを考慮するなど、手慣れてきたと言う印象です。ただ、照明だけは何とも出来ないのが残念ですが、美術館でない空間ではしかたがないのでしょう。

今回もお気に入りを探してみたのですが、何と昨年に引き続き小磯良平(1903-1988)の作品が気になってしまいました。展示を意図的にやっているのだと思うのですが、この「裁縫女」という作品は、昨年、小磯の作品があった同じ場所にあったのです…なので、ここを密かに小磯コーナーとか名付けてしまいました。

秘蔵の名品アートコレクション展
小磯良平「裁縫女、1932」

小磯の作品は、清楚というイメージがあるのですが、この「裁縫女」は、ちょっと色っぽい感じがします。暑さのためか、画面の彼女は下着姿のように見えます。胸元も大きくあいていて、ドッキリしてしまいます。彼のイメージが変わる良い作品に出会ったと思います。

さて、展覧会ではアンケートも行っていて、どの作品が印象に残ったかを独自に調べているようです。もちろん、プレゼントの抽選もあるので投票に参加しました。この「裁縫女」がNo.1になってくれた良いなと思っていますが…どんな結果になるか楽しみです。

※ホテルオークラ東京(2012年8月3日~2012年8月26日)

モンソー公園 ~ 近代日本洋画の魅惑の女性像 -モネ・印象派旗挙げの前後-2012年08月24日 01時12分49秒

東京で訪れたことのない美術館がいくつかあります。泉屋博古館分館も、そのひとつです。ホテルオークラ東京からすぐのところ、神谷町駅ではなく六本木一丁目駅の方に歩いて行くと見つかる小さな美術館です。

本家の泉屋博古館は、京都の鹿ヶ谷(平安神宮のそば)にあるそうです。住友グループが母体となっていて、住友家の第15代当主である住友春翠(すみともしゅんすい)(1864-1926)が、収集したコレクションがはじまりだそうです。

近代日本洋画の魅惑の女性像

青銅器や鏡鑑のコレクションが有名ですが、中国・日本の書画、西洋絵画、陶磁器、茶道具、文房具、能面・能装束など、かなり広範囲のものをカバーしているようです。今回は、その中から近代日本と印象派の西洋絵画に絞った展覧会となっています。

女性の肖像画を中心に藤島武二(1867-1943)、岡田三郎助(1869-1939)、山下新太郎(1881-1966)、小磯良平(1903-1988)などを展示、加えて美術館自慢のクロード・モネ(1840-1926)の「サン=シメオン農場の道」と「モンソ-公園」をメインに紹介しています。

モネの作品は、春翠が直接買い付けに行ったものとのことです。当時、あまり知られていなかった印象派の作品にいち早く目をつけたところは、かなりの目利きのコレクターと言えます。だからこそ、住友コレクションにとっては、とても思い入れのある作品なのでしょう。

近代日本洋画の魅惑の女性像
クロード・モネ「モンソー公園、1876」

「モンソー公園」は作製年からすると、パリで印象派展が開催されていた頃の作品のようです。光が踊るまさに印象派という感じの作品です。緑の木々と穏やかな空が、とても優しい気持ちにさせてくれます。なお、赤い花をつけている木は、マロニエのようです。

きっと、コレクターの春翠も同じ気持ちだったと思います。日本にはない風景であり、憧れのヨーロッパの風景をいつまでも映し出しています。はじめて訪れた美術館ですが、とても良い印象を感じました。別の企画展にまた訪れたいと思います。

※泉屋博古館分館(2012年7月7日~2012年9月23日)