Asagi's Art News





固定された表情 ~ ジェームズ・アンソール -写実と幻想の系譜-2012年09月29日 22時44分32秒

ジェームズ・アンソール(1860ー1949)の作品は、シュルレアリスムの展覧会に影響を与えた作品として、一緒に展示されることが多いような気がします。骸骨を描く画家としての認識があるのですが、単独の回顧展を訪れるのは、ははじめてだったと思います。

今回の展覧会は、彼の故郷でもあるベルギーのアントワープ王立美術館の改装により実現したと聞いています。骸骨のアンソール以外のどんな作品に出会えるのか、とても楽しみにしていた展覧会のひとつです。

ジェームズ・アンソール

画家を目指したアンソールは、ブリュッセルの王立絵画アカデミーで絵画を学んでいます。初期の作品は、古典的なフランドル絵画を思わせる感じの写実が中心で、自画像をはじめとする人物画や静物画、どんより感のある風景画なども描いています。

興味深いのは、劇的な変化を遂げるパリとは疎遠であることです。気にならないはずがないと思うのですが、そこには目も向けず独自の世界観を確立させたのかもしれません。

そして、徐々に髑髏のアンソールとして、注目を集めるようになっていったと思います。しかし、彼が骸骨を作品にする前に、もうひとつ注目すべき対象を描いていました。それは、仮面です。

仮面は素顔を隠すことによって、まったく別の人物に変わることができます。そのため自身の卑しさや強欲さえも気にすることなく振る舞うことが出来るのです。但し、それは仮面をかぶる方のことですが・・・

では、仮面をかぶる者たちを見る側には、その様子はどう感じるでしょうか? 喜怒哀楽の表情を持つ仮面ですが、それは固定された表情です。動かない表情は、ある意味で死との関わりを導き出すのかもしれません。

あくまで推測に過ぎませんが、アンソールは、仮面をかぶった者たちに対して、精神的な自由を手に入れていても、表情の変化がない死者と同じであると考えたのかもしれません。そう考えると仮面から骸骨に変化していくことが自然に思えるのです。

ジェームズ・アンソール
ジェームズ・アンソール「陰謀、1890」

さて、展覧会では、その仮面の作品の中でも代表的な『陰謀』と出会うことができます。仮面をかぶるり自身を隠した人たちは、お互いの欲望をさらけ出そうとしていますが、その表情は乾いていて変化はしません。自身の欲望と引き替えにするものは、自身の死と言うことなのでしょうか?

この作品は、色彩的にも華やかであり、それが人々のたくらみの数の多さを暗示しているようにも思えます。もしかして、当時、アンソールは、彼の周囲の人間関係に疑問を持っていたのかもと考えてしまいます。

簡単に人を信じられない・・・そのような苦い経験がどこかにあったのか、もっと広い社会的な問題に関心があったのか、興味は尽きません。そして、彼が人の精神的な部分に光をあて、絵画によって表現しようとしたことにも、今後注目してみたい気がします。

※損保ジャパン東郷青児美術館(2012年9月8日~2012年11月11日)