Asagi's Art News





サイレント ~ 加藤久仁生展2012年03月18日 20時58分17秒

『つみきのいえ』のアカデミー賞 短編アニメーション賞(2009)の受賞は、宮﨑駿(1941-)が『千と千尋の神隠し』で長編アニメーション賞(2002)を受賞よりも嬉しかったのを思い出しました。それは、アニメーションにおける芸術性は、短編作品の方がより濃く描かれるためです。

加藤久仁生展

本来、日本のアニメーションを支える人たちも短編アニメーションの持つ意味を十分に理解していると思っていますが、やはり商業主義が優先されるため、作成に時間を必要するアニメーションでは難しい問題もたくさんあると思っています。

加藤久仁生(1977)さんは、多摩美術大学の出身だそうで、大学時代からアニメーション作成して国内での受賞歴もあるそうです。ROBOTという映像制作会社に所属して、Web、TVなどのアニメーション制作をしてきいるとのことです。

彼を知ったのは、Webでのアニメーションを見てからですが、シニカルな世界観とスマートなキャラクターがとても魅力的でした。キャラクターが話さない(サイレント)なのも、最初から国内よりもグローバルを意識していたのだと推測できます

アニメーション表現は、動きがあるだけに絵画よりも鑑賞者に魅せることを意識する必要があるように思っています。ドラマのように台詞を用いて補完することもできますが、あえてサイレントにすることで鑑賞者に対してのメッセージ性が強くなることがあるのです。

『つみきのいえ』は、そのことを再認識できる作品なのです。ただ、アニメーションを作るのは、いろいろな工程が必要で、原画、コンテ、セル(最近はCG)、編集、構成など…アニメーションの企画展を見るたび実感させられます。

※八王子市夢美術館(2012年2月10日~2012年3月25日)

ここからはじまるもの ~ アニメ化40周年 ルパン三世展2011年08月16日 16時43分38秒

現在でも制作が続いている人気アニメーションのルパン三世もすでに放映開始から40年もの歳月が過ぎたそうです。放映当時の視聴率はそれ程でもなく、テレビ局の再放送の繰り返しによって徐々にファンを獲得していって作品だったようです。

原作はモンキー・パンチ(1937-)、漫画の連載は漫画アクションにおいて1967年から1969年まで全94話あるそうです。基本的はハードボイルドなもので、アニメーションでのコメディーな要素はほとんどなかったとのことです。

ルパン三世

アニメーションとなったルパン三世は、個性的なキャラクターや当時では斬新な音楽(ジャズ的な要素を持ち込んでいる)など、当時の子供向けアニメーションとは異なるスタンスに立ち制作サイドはかなりの冒険をしたようです。

展覧会は、漫画の原画やアニメーションの企画書や設定資料などを見ることが出来ますが、どちらかと言うとルパンファンのための催し的なものになっています。銀座松屋における恒例のアニメ祭りという要素を強く受けますが、このような展覧会もあって良いと思います。

芸術的なことよりも、ここからはじまるものがあるように思います。他の漫画やアニメーションにも言えることですが、ルパン三世の世界観を好きになることで何かをつかめるのではと思っています。特に子供たちは、漫画やアニメーションを目指すことも出来るし、美術や音楽に拘って違った方向に進むことも出来ます。これがきっかけになってくれればと思っています。

※松屋銀座(2011年8月10日~2011年8月22日)

アートアニメーション ~ 木を植えた男。 フレデリック・バック展2011年07月24日 23時41分27秒

アニメーションの分類にアートアニメーションというものがあります。テレビ放映される一般的なアニメーション(アニメ)と区別をするためにあえて使用しているようです。日本のアニメの歴史は古いのですが、アートアニメーションとなるとさほどでもないようです。手塚治虫(1928-1989)もいくつか実験的なアニメーションを試みていますが、評価となると厳しい一面があるようです。

もちろん、最近の日本にも「頭山」の山村浩二(1964-)や「つみきのいえ」の加藤久仁生(1977-)などアカデミー賞で評価される作家があらわれてきましたが、圧倒的に日本が優位になっているとは言えない状況です。商業的なアニメで成功している現実があることからも芸術性の高い作品もそれに続いてほしいところです。

フレデリック・バック

さて、アートアニメーションを確立した存在こそが、今回の展覧会の主役であるフレデリック・バック(1924-)なのです。1981年に「クラック!」という作品で第54回アカデミー賞短編アニメ賞受賞します。この作品は、色鉛筆のやわらかいタッチのアニメーションで森から切り出された木がロッキング・チェアに変わり、人たち暮らしの中で壊れ、修理をされ使われていくさまを軽快な音楽とも綴ります。

そして、1987年に一部のアニメーションファンに衝撃をあたえた「木を植えた男」を発表します。また、「木を植えた男」は「クラック!」と同様に第60回アカデミー賞短編アニメ賞受賞することで、芸術性の高いアニメーションの評価を高めています。

「木を植えた男」は、色鉛筆のやわらかいタッチは変わらず、戦争や環境問題などの社会性のあるテーマをさりげなく語っています。世界情勢が変化する中に一人荒れた森に木の種を植え続け、人知れず大きな森へと再生させる。それは、人間が神と同じようなことを成し遂げることができる奇跡を描いています。

このアニメーションの衝撃は、社会性のあるテーマを扱うことに加えて、テレビで見ていたセルを使ったアニメーション以外の手法があり、しかも感動するほど美しいことでした。当時、商業的に誇張されパターン化されたアニメーションの世界が、空しく寂しいものように感じました。どうして、日本では芸術性の高いアニメーションは評価されないのか疑問を持つようになったのもこの作品があったからです。

「木を植えた男」の発表からしばらくして、商業的なアニメーションを制作するプロダクションでも、同じような疑問を持つ人が出てきたのです。例えば、スタジオジブリの宮﨑駿(1941-)や高畑勲(1935-)などが、積極的にアートアニメーションの紹介を続ける活動を行いました。新しい人材が育ってきたことは本当に嬉しい限りで、日本のアニメーションも捨てたものではないと感じることができています。

※東京都現代美術館(2011年7月2日~2011年10月2日)

押井流のもの作り ~ 押井守と映像の魔術師たち2010年08月03日 22時16分15秒

押井守(1951~)は、「こんな展覧会2度とやらない」と冒頭で宣言していましたが、アニメーション資料をはじめ、フィギア、撮影衣装、小道具など彼の想い入れがあるものが所狭しと展示されています。それは、彼のおもちゃ箱を見ているように思います。

押井守

彼の代表作は、1995年に監督したアニメーション「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」です。士郎正宗の原作をベースに、インターネット黎明期にあった当時において、ネット世界の到来を予言させる注目作でした。この作品は、ハリウッドで活躍するクリエーター達にも刺激を与えています。

撮影されない細部にまでこだわることが、押井流のもの作りのようです。例えば、設定用のフィギヤに精密な作りを要求するのは、ある意味において現実世界以上のリアリティをを共有させるためなのかもしれません。すべてを作り込まなければいけないアニメーションであるがゆえのこだわりであると思います。

商業ベースで作成されるアニメーションの中で作品を残していくことは大変なことだと思います。しかも、そこにもの作りのこだわりを求めることは、さらに困難なのかもしれません。芸術系の大学や専門学校でもアニメーションを学ぶところが当たり前になってきましたが、そうした若い人たちには彼の姿勢は参考になるのでないでしょうか。

※八王子夢美術館(2010年7月16日~2010年9月5日)