Asagi's Art News





ラストメッセージ ~ 東京ゴッドファーザーズ2010年08月29日 00時36分23秒

先週、アニメーション監督の今敏(1963-)訃報が飛び込んできて驚きました。膵臓(すいぞう)ガンとのことでした。劇場作品は4本ととても少ないのですが、社会のあり方に問いかけるインパクトと人の魅力を表現する期待の監督でした。

アイドルとそのストーカーをテーマにした『パーフェクトブルー』がデビュー作です。そして、老女優の人生を回想する『千年女優』、あさぎがいちばん好きな作品でホームレスがクリスマスの日の奇跡を綴る『東京ゴッドファーザーズ』、最後は筒井康隆原作の『パプリカ』と、これしかありません。

東京ゴッドファーザーズ
今敏「東京ゴッドファーザーズ、2003」

特に印象深いのは『東京ゴッドファーザーズ』であり、新宿の訳ありホームレス3人(元競輪選手のギンちゃん、元ドラァグ・クイーンのハナちゃん、家出少女のミユキ)が、クリスマスの日に捨て子(清子)を見つけることからはじまるストーリーです。そして、彼ら3人は成り行きから捨て子の両親を捜すことになり、東京の底辺でうごめく人々のさまを活き活きと描いています。

もちろん、彼ら3人だけでなく登場する多くの人たちが、さまざまな問題を抱えています。随所に毒もたくさんあります。しかし、そんなことを吹っ飛ばすかのように、明るく前向きになっていくホームレスたち。奇跡もたくさん起こり、クリスマスの贈り物としてさわやか気分に指せてくれる良い作品です。

いまは、このような作品を残してくれた今敏監督に感謝したいと思うのと、次の作品を見たかったという落胆の気持ちが入り交じっています。彼とは同世代ということもあり、社会や人に対する感覚が近いような気がしていていました。

そして、彼は闘病中にも関わらず冷静に自分を見つめ、残される人たちにメッセージを残していることもすごいと思いました。彼のラストメッセージをリンクしておきますので、良かったら読んでみて下さい。

※今敏オフィシャル・サイト-KON'S TONE

にゃにゃ! ~ こまねこ2007年02月14日 00時27分10秒

先日、テレビ(NHK:トップランナー)でアニメーション映画の合田経郎監督の特集がありました。再放送かもしれませんが、人形アニメーションの作成方法や製作のきっかけなどとても興味深かったです。しかも、彼は、NHKのキャラクターである『ドーモくん』の生みの親でもあり、かなり踏み込んでの番組作りが良かったです。

なんとなく映画を情報を検索していたら、彼の『こまねこ』という作品がまだ上映中とのことで、さっそく出かけてきました。公開から1ヶ月以上を過ぎていたので、シネコンでは朝一で一回きりの上映だったので、頑張って早起きしました。朝一上映にも関わらず、また、小さな劇場ではあったのですが、ほぼ満員の盛況状態でした。

こまねこ
合田経郎「こま撮りえいが こまねこ、2006」

映画は、短編のアニメーションを5話まとめる形で構成されていました。最初からほのぼのとした感じが漂い、テレビで紹介されたようにかなり細かい動きには驚きました。主人公のこまちゃんは、コマ撮りアニメーションを作成するため人形を作り、スタジオを作り地道に1コマ1コマ撮影をしていきます。

その姿は、合田監督自身のことを描いているかのようでとてもおもしろいです。物語は、そのこまちゃんとさまざまなお友達との出会いを描いて行きます。すべてネコ語で”にゃにゃ!”と言った感じで、会話まで想像させるところがいいです。

だから、この作品は、何も付け加えず海外に持って行っても理解されると思います。表現方法も、作品に込められたメッセージも説明なしで判る・・とてもすごいことです。作品の作成には、多くの時間がかかりますが、アニメーションのいろいろな可能性を詰め込むことができると思います。

※こまねこ

クロとシロ ~ 鉄コン筋クリート2007年01月18日 00時30分01秒

どことなく懐かしい感じのする情景の世界ですが、ポップでリズミカルな感じがします。日本というよりもアメリカの日本人街のような雰囲気がします。これは、監督であるマイケル・アリアスが持っているアメリカンな感覚なのでしょうか?

鉄キン筋クリート
マイケル・アリアス「鉄コン筋クリート、2006」

再開発計画から取り残された宝町に、暴力と夢を持って暮らす2人の少年クロとシロ。彼らは、地元のヤクザやヤンキー、警察も巻き込み共存共栄の関係を築いていました。しかし、再開発を盾によそ者の新興ヤクザとトラブリます。変わり行く宝町でクロとシロは、必死に抵抗をしていく・・。

クロは、喧嘩も強く頭も良い少年です。そして、シロは、そんなクロが好きでとてもピュアな心を持った少年です。クロは、シロの世話をやき必死に守ろうとします。しかし、暴力がすべてである生活の中では、徐々にクロの気持ちは揺れていきます。敵の新興ヤクザからの攻撃を避けるため、大人のような振る舞いをしてしまうクロ。

シロのためと思い別れを選びますが、それはクロを狂わすことになっていくのです。シロは祈り、暴力だけでは解決できないことをクロに呼びかけます。想いが通じたとき、互いの欠けているものを知り補い合うことの大切さに気付くのです。

現実社会では、クロのように暴力で解決を見つけようとする人が増えてきています。シロの心を必要としながらシロの存在に気がつくことができないでいます。純粋な優しい心に出会うことは、現実社会では難しくなってきているのでしょうか・・。

※鉄コン筋クリート

もうすぐクリスマス ~ パプリカ2006年12月22日 23時50分30秒

映画の街になってきた川崎に行ってきました。クリスマスが近いわけでもないのでしょうが、あさぎの好きなアニメを何本かやっています。今夜は、今敏監督の「パプリカ」です。マニアには、それなりに人気があり独特の雰囲気も定番になってきました。

「パプリカ」の原作は、筒井康隆です。夏に見たアニメの「時をかける少女」と同じです。彼の作品は、最近よくアニメの原作になりますがどうしてでしょうか? ブームなのでしょうか?

他人の夢を共有する装置を開発したことで起こる、夢とも現実とも区別のつかない騒動の話です。微妙な精神世界は、今監督の得意なところですが、原作がある分かミステリーのポイントがいまいちのような気がしました。

やっぱりですが、少しマニアックな内容と思いました。もうすぐクリスマスだからなのかは判りませんが、ちょっぴりラブラブなところもあっておもしろかったです。初夏のような季節感を除けばですが・・。

おもしろいものを拾ったので、貼り付けてみます。小さいですが予告を見ることができます。

愛欲と性欲 ~ クリムト2006年12月18日 23時23分29秒

公開初日に見に行っていたのですが、期待通りの作品でなかったこともあり、ブログ記事は書きかけのままでした。伝記ものではないので、美術史の知識を増やすこともできません。かといって、クリムトの世界観を得られることもできず、中途半端な感じがしました。

ジョン・マルコビッチの演技は、すばらしいと思います。独特の気だるい感じがすてきです。彼の存在自体が、エロティックで良いです。ラウル・ルイス監督が彼をクリムト役にしたのは、正解だと思います。しかしながら、作品のテーマは、見えにくくなってしまっています。

少なくとも、クリムトの好色さの表現がきれい過ぎます。愛欲と性欲は、とても生々しいものです。それは、クリムトの絵画からも伝わってきます。「接吻」が持つぎりぎりの愛、「ダナエ」の持つ官能さ、そういうものを期待したのですが・・。

ダナエ
グスタフ・クリムト「ダナエ、1908」

アラーキーこと荒木経惟は、自らの作品に対して「わいせつか?」とたずねられたとき、迷いなく「わいせつです」と答えるそうです。けして、開き直っているわけでなく、彼の信念が見え隠れしてとても魅力的だと思います。

倫理観は、国や地域、個人でもさまざまです。しかし、愛欲と性欲は、人間の根本をなす大切な欲望のひとつで、ちゃんと見つめる必要があります。

クリムトの絵画は、当時のパリでは「わいせつ」と評価されています。だから、それに対してどう戦いを挑んでいったか気になるところです。クリムトの信念をどう映像にするのかで、作品は変わると思います。幻想でなく生身のクリムトを描いてほしかったと思います。

※クリムト