Asagi's Art News





SHUNGA 春画展2015年09月28日 00時44分51秒

大英博物館の春画展は、世界のみならず日本にも多大な影響を与えました。いつものことですが、海外が認めたことでようやく思い腰を上げるのが日本人なのでしょう。以前、春画といえば、芸術としては認知されず猥褻として扱われました。したがって、書籍などでは、局部が見えると修正となりました。

春画展

そのような春画の展覧会を日本でも開催することになりましたが、企画、作品収集、会場、年齢制限などさまざまな課題をクリアしなければならなかったものと想像します。関係者の苦労に敬意を示し、価値観の転換期に居合わせた喜びに感謝したいです。

さて、展示内容ですが最古の春画とされる13世紀の絵巻をはじめ、浮世絵の全盛期の絵師である春信、師宣、北斎、歌麿、国貞、豊国などが勢揃いです。豪華な作家を要する春画ですが、やはり当時も陰に隠れ密かに限られたものにしか見ることが許されなかったと思います。そのため、作品は色あせず当時の鮮やかさには驚かされます。

春画展

その性表現には、男性と女性では受けとめ方が異なると思います。男女の性の違いというよりは、脳の違いなのでしょう。例えは、女性の脳は言語やコミュニケーションに長けており、男性の脳は空間認識などに長けています。

春画以前の性表現と言えば文学であり、もっとも古いのは紫式部の源氏物語でしょう。紫式部は、女性であることから言葉を巧みに操り、特に女性に対して大胆な想像を抱かせます。このようなプロセスは、男性の脳は得意としましせん。

しかたなく男性の脳は、源氏物語から数100年の時間をかけ性表現を絵画として発展させることで、女性の脳に追いつくために努力してきのかもしれません。それはともかくとして、めったにない機会ですから、最高の春画を見逃さないようにしたいものです。

※永青文庫(2015年9月19日~2015年12月23日)

ヒーロー ~ 没後150年 歌川国芳展2012年01月27日 21時10分40秒

歌川国芳(1798-1861)の印象は、人気浮世絵師であるのはもちろんですが、江戸の街にいた「いきでいなせ」という言葉が似合う江戸っ子であるように思います。陰の努力は人には見せず、斬新で新しい画風を次々の送り出すのです。

そして、時の権力に対してもアイデアで対抗して、老中・水野忠邦にも浮世絵を武器に果敢に挑んでいく、まさに江戸庶民のヒーローなのだと思います。また、大の猫好きとも知られ、そのギャップも魅力のひとつなのです。

歌川国芳

展覧会は、そんな国芳の作品を400点以上も集めてしまった大がかりなものです。代表的な武者絵、役者絵、美人画、風景画と国芳の仕事のすべてを網羅しています。もちろん、猫の絵や『みかけハこハゐがとんだいゝ人だ』をはじめとする戯画(ぎが)もあります。

状態の良い作品が多く、その鮮やかさや迫力はとてもすばらしいものです。ただ、そのため、これまた多くの人が集まってきたため、会場も大盛況で、鑑賞もけっこう大変だったりしました。それは、それで良いことですが…

良い作品はたくさんあるのですが、今回はやっぱり武者絵の『宮本武蔵と巨鯨』が良かったと思います。3枚セットのど迫力な作品です。国芳は、このシリーズを手掛けることで、浮世絵師として一躍スターダムに上り詰めていきます。

歌川国芳
歌川国芳「宮本武蔵と巨鯨、1848」

その勢いは画面から直接伝わって来るようで、武蔵の話を知らなくても十分楽しむことが出来そうです。そんなところが、当時の江戸っ子に支持されてたのだと思います。そして、いまもその人気は続き支持されています。

※森アーツセンターギャラリー(2011年12月17日~2012年2月12日)

締めくくり ~ 版画の彩展2011 第36回全国大学版画展2011年12月27日 22時20分22秒

いろいろあった2011年の締めくくりの展覧会として選んだのは、全国大学版画展です。とても地味ですが、未来をめざす若者の作品から元気がもらえると思ったからです。町田の国際版画美術館が出来てから毎年続いてる企画で、過去に何回か出かけたことある展覧会です。

全国大学版画展

いままで気がつかなかったのですが、展覧会の運営に関しても大学生が行っているようでした。美術系の大学だけでなく、教育学部や教養学部などの学科や短大、専門学校からもエントリーされています。

版画手法も木版、銅板、リトグラフ、シルクスクリーンなどさまざまであり、試行錯誤から表現される個性的な作品を見ることはとても楽しいです。版画は作成において制約もあり、あまり大きな作品を作ることは難しいと思っていました。しかし、展覧会ではその制約をものともせず、大きな作品がかなりたくさんあり驚きました。

全国大学版画展

全国大学版画展

表現方法もバラエティが豊富で、具象表現あり、抽象表現あり、その中間といったもの…中には立体表現という版画表現の新しい可能性を見せつける内容になっています。ただ、全体的に女子学生の作品が多いようで、これはだいぶ以前からの傾向ですが、男子学生ももっと頑張ってほしいものです。

全国大学版画展

全国大学版画展

エントランスでは、学生の作成した小さく手ごろな作品が販売されていました。なかなか良くできていて、素敵な作品も数多くありました。あさぎもせっかくなので、静物画のエッチングを1枚購入してみました。なすと豆が描かれている意味深の一枚、なかなか味のある作品で気に入っています。

※町田市立国際版画美術館(2011年12月3日~2011年12月18日)

謎は終わらない ~ 特別展 写楽2011年05月07日 22時38分30秒

東洲斎写楽(生没年不詳)は、江戸の街に突然あらわれ10ヶ月あまりの活動で消えてしまいました。謎の絵師として、さまざま人たちが謎解きに挑んできました。大物浮世絵師説、版元の蔦屋重三郎(1750-1797)説など興味深い憶測が飛びかうミステリーです。

写楽

しかし、最近になって謎解きに大きなヒントを与える発見がありました。ギリシャの国立コルフ・アジア美術館のコレクションの中に、写楽のものと思われる肉筆扇面画があったのです。肉筆画の分析から多くのことが明らかになり、謎であった写楽の正体に迫ることができたのです。

そして、斎藤十郎兵衛(1763-1820)説がにわかに有力視されることになったのです。斉藤という人物ですが、阿波徳島藩の能役者であることが判っていて、住まいは八丁堀となっています。興味深いのは、この斉藤の家の近くに版元である蔦屋の店があるのです。

能役者の仕事は特定の季節に集中していて、次の仕事の時間まで間が空くようなことがしばしばあったようです。また、仕事柄、斉藤が歌舞伎などの演劇を好んで見ていたことも推測できます。表現に関する研究から浮世絵を描いていたことは、誰でもたやすく想像できることです。もちろん、蔦屋への接触に関しても…

さて、今回の展覧会ですが、衝撃的なデビュから徐々に変貌する写楽第4期までを網羅する大掛かりな回顧展です。東博ならではラインナップとボリュームは圧巻と言えます。数にして170点もの作品に一度に出会うことができるのです。

第1期の作品は、誰もが知っている役者大首絵28図となり、雲母の粉を使った雲母(キラ)刷りの贅沢な作品となります。そして、あまり馴染みない第2期~第4期と続くのですが、これが同じ絵師の作品であるかと思うほどの変化をみることができます。もともと、版元の蔦屋が仕掛けたイベント的な要素が見え隠れするシリースなのです。

役者大首絵についてもいろいろな見解がありますが、役者の個性や芝居のポイントなる部分を、斬新な切り口で描くのが写楽なのです。例えば、「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」と「市川男女蔵の奴一平」は、同じ芝居の一場面であり、まさにクライマックスを迎えています。獲物を見つけ驚く江戸兵衛の手の表情や緊急事態に覚悟を決めた奴一平の憤りまで伝わる絶妙な表現です。

写楽
東洲斎写楽「三代目大谷鬼次の江戸兵衛(左)&市川男女蔵の奴一平(右)、1794」

しかし、そんな写楽でもすべての人から評価を受けたわけではないのです。例えば、役者のありのままを描くことにより、女形には嫌われたりしたのです。そして、それはブロマイドとして浮世絵を求める人たちに共感を与え大衆からも酷評を受けた可能性だってあります。

現代でこそ写楽の凄さは評価されていますが、はたして当時の江戸にあってはどうだったのでしょうか? それが迷いなのか、トラブルなのかは判りませんが、大きく第2期以降に影響しています。迫力のある表現はなくなり、ありきたりの全身ポーズになったり、使用される紙や絵の具も粗悪なものなっていきます。

本当に役者大首絵の写楽なのかと疑うほどの作品なのです。ある説によると、第2期以降は斉藤とは別人だった可能性があったそうです。何らかの形で斉藤が手を引いてしまい、蔦屋としても儲けが出ず、何とか回収をするために写楽の名前を使い続けたのかもしれません。

それは、展覧会を通して感じてくることであり、事実だったような気がしています。まだまだ謎はいくつも残っています。絵師の正体が見えてきた程度では、写楽の謎は終わらないのでしょう。これからも、大いなるミステリーで楽しませてくれると思います。

※東京国立博物館(2011年5月1日~2011年6月12日)

手の中にあるもうひとつの絵画 ~ 挿絵本の世界2010年04月13日 22時32分07秒

本の挿絵を描くことは、画家にとって当座の現金収入だけなのでしょうか? 古今東西たくさんの画家が本の挿絵を手がけています。物語の一場面や雰囲気を演出する挿絵は、簡素なものから本格的なものまで様々です。展覧会では、挿絵の専門家から巨匠と呼ばれる人たちの作品もいくつかありました。

挿絵本の世界

テーマに分かれていますが、基本はルネサンスから近代までの作品を時代順に紹介していると思います。その中で目を引いたのは、アルフレッド・デューラーの聖書の版画でした。モノクロの力強い画面構成は、挿絵というよりもひとつの作品であるようの感じます。聖書が伝えるべき教えをより印象的に展開しています。

挿絵本の世界
アルフレッド・デューラー「黙示録より四人の騎者、1498」

それから、古い作品の中にも手塗りや多色刷りのカラーの作品もあります。やはりその中では、アルフォンス・ミュシャの作品がきれいでした。原画やポスターなど大きな作品も見たことがありますが、コンパクトな版画もなかなか良いものです。本の一部となり手の中にあるもうひとつの絵画の世界と言えます。

展覧会の題名は、本当はもっと長くて「挿絵画の世界 きれい、カワイイ、怖い 本と版画のステキな関係」となっています。きれい、カワイイ、そして、怖いのテーマで展示がされているのですが、それほど厳密には分かれていないように思いました。

それよりも、近代に近づくごとに華やかさが増し、モダンな感じになってくるのおもしろいと思います。はじめて出会う作家の作品もたくさんいてとても新鮮です。後半には、マネとか、ピカソといったビックネームが出て来るので飽きない構成になっているところがとても良いです。

版画だけでもいろいろなアプローチで楽しめることを証明している展覧会でした。美術館が最寄りの駅から離れているマイナス面もありますが、版画に特化したコレクションのあり方は、高い評価に値すると思います。

※町田国際版画美術館(2010年4月10日~2010年6月6日)