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アートアニメーション ~ 木を植えた男。 フレデリック・バック展2011年07月24日 23時41分27秒

アニメーションの分類にアートアニメーションというものがあります。テレビ放映される一般的なアニメーション(アニメ)と区別をするためにあえて使用しているようです。日本のアニメの歴史は古いのですが、アートアニメーションとなるとさほどでもないようです。手塚治虫(1928-1989)もいくつか実験的なアニメーションを試みていますが、評価となると厳しい一面があるようです。

もちろん、最近の日本にも「頭山」の山村浩二(1964-)や「つみきのいえ」の加藤久仁生(1977-)などアカデミー賞で評価される作家があらわれてきましたが、圧倒的に日本が優位になっているとは言えない状況です。商業的なアニメで成功している現実があることからも芸術性の高い作品もそれに続いてほしいところです。

フレデリック・バック

さて、アートアニメーションを確立した存在こそが、今回の展覧会の主役であるフレデリック・バック(1924-)なのです。1981年に「クラック!」という作品で第54回アカデミー賞短編アニメ賞受賞します。この作品は、色鉛筆のやわらかいタッチのアニメーションで森から切り出された木がロッキング・チェアに変わり、人たち暮らしの中で壊れ、修理をされ使われていくさまを軽快な音楽とも綴ります。

そして、1987年に一部のアニメーションファンに衝撃をあたえた「木を植えた男」を発表します。また、「木を植えた男」は「クラック!」と同様に第60回アカデミー賞短編アニメ賞受賞することで、芸術性の高いアニメーションの評価を高めています。

「木を植えた男」は、色鉛筆のやわらかいタッチは変わらず、戦争や環境問題などの社会性のあるテーマをさりげなく語っています。世界情勢が変化する中に一人荒れた森に木の種を植え続け、人知れず大きな森へと再生させる。それは、人間が神と同じようなことを成し遂げることができる奇跡を描いています。

このアニメーションの衝撃は、社会性のあるテーマを扱うことに加えて、テレビで見ていたセルを使ったアニメーション以外の手法があり、しかも感動するほど美しいことでした。当時、商業的に誇張されパターン化されたアニメーションの世界が、空しく寂しいものように感じました。どうして、日本では芸術性の高いアニメーションは評価されないのか疑問を持つようになったのもこの作品があったからです。

「木を植えた男」の発表からしばらくして、商業的なアニメーションを制作するプロダクションでも、同じような疑問を持つ人が出てきたのです。例えば、スタジオジブリの宮﨑駿(1941-)や高畑勲(1935-)などが、積極的にアートアニメーションの紹介を続ける活動を行いました。新しい人材が育ってきたことは本当に嬉しい限りで、日本のアニメーションも捨てたものではないと感じることができています。

※東京都現代美術館(2011年7月2日~2011年10月2日)

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