Asagi's Art News





平和への祈り ~ ケーテ・コルヴィッツ展2006年04月19日 00時51分54秒

東京の外れ、町田に少し変わった美術館があります。そこは出かけるには少し不便なのですが、静かな公園の中にある版画の美術館です。駅からも離れているのですが、緑の木々が見えはじめると厳しい坂道が谷底に続きます。駅前の喧騒とは別つの静かな場所です。

ケーテ・コルヴィッツ

各美術館がドイツ年を記念して行っている展覧会のひとつで、平和の祈りと題してケーテ・コルヴィッツの作品展が行われていました。彼女は2つの戦争の中を生き、その中で最愛の家族を失っています。第一次大戦ではひとりは自分の息子を、第二次大戦ではその孫を戦争の犠牲に取られてしまいました。

作品には、その悲しみが色濃く表れているようでした。もともと人間の心の内の表現に興味があったようですが、彼女に起こる人生の転機にあわせて人間への悲哀を作品にぶつけていくようです。

前半ではリトグラフなどを使い細かく細い線で作品を作っているのですが、あるとき木版に変化し大胆な太い線の作品に変わって行きます。展覧会のポスターにもなっている「寡婦I」は、行き場のない悲しみが表れいるようでとても重い気持ちになります。

寡婦I
ケーテ・コルヴィッツ「寡婦I、1921」

悲運に耐えて祈りを続ける・・。絶望に向き合い僅かな望みで立ち向かう強さがそこにあります。折りしも広島では、世界遺産の原爆ドームを100周年になるまで現状を維持するとのニュースがあり、平和と何かを考える機運が出てきたと思います。

画家の訴えることは、深く重いことです。それは、人はなぜ戦いを繰り返すのか、憎しみと悲しみの連鎖の断ち切ることはできないのかという心の叫びなのでしょう。平和への祈りが伝わってくる展覧会でした。

※町田市立国際版画美術館

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