Asagi's Art News





美の不変性 ~ ハンス・コパー展-20世紀陶芸の革新2010年09月04日 00時37分23秒

陶芸(焼きもの)の作品に対しては少し苦手感があって、あまり見に行く機会がありません。整然と置かれた作品を見つめるだけでは、どうも上手く感じが読み取れないことが原因なのだと思います。確かに、陶芸は遠くから眺めても美しいと思いますが、本来は手に持って触って楽しむものだと思っています。

だから、大事に飾られガラスケースに収まった作品を見るのには多少違和感を感じるのです。しかし、ハンス・コパー(1920-1981)の作品は、見るだけでも何か伝わってくるような感じがしました。既に会期が迫ってきていて、駆け込みで出かけることが出来ました。

ハンス・コパー展

本当は早い時期から展覧会を気にしていたのですが、陶芸ということで引いていたのだと思います。たまたま日曜美術館でハンス・コパーの特集を見たことが、会いに行くきっかけになりました。あり得ないような形の器は、とてもインパクトがありました。そして、彼の人生もまた数奇であり魅力があるのです。

パナソニック電工汐留ミュージアムと企業名が変わったことで、名前も変わってしまった美術館には、やはり日曜美術館を見たと思われる人たちが集まっていました。いつも静かな美術館ですが、テレビの影響はすごいものだと思います。

日曜美術館を見ただけの知識ですが、ハンスはドイツに生まれ、ちょうど第二次大戦と歩調を合わせるかのように成長しました。そして、社会の旅立つ直前に父親の自殺、家族の離散、祖国からの逃避行とめまぐるしい人生の波にのまれます。イギリスに渡った後も敵国人として扱いを受け、収容所にも送られひどく心に傷を作ることになります。

これも必然だったのだと思いますが、戦争も終わり仕事を求めた彼は、陶芸家のルーシー・リー(1902-1995)と出会うのです。繊細で器用な彼はルーシーから陶芸を習いはじめるのですが、とても飲み込みが早く才能もありました。いつの間にかルーシーの良きパートナーに成長して、ルーシーのバックアップもあって独自の作品も手がけるようになりました。

展覧会は、彼が作品を発表しはじめた頃のものから、独立して20世紀陶芸の代表作を送り出す晩年までをゆっくりと展開させています。ルーシーのボタンやティーセットなどルーシーの世界を忠実に再現しています。また、ハンスが独自に作りはじめる同じ形を合わせる技術を使ったシンメトリーな作品は、時が経つと共に進化していきます。

陶芸が戦争で受けた傷を徐々に癒していったのだと思います。そして、作品の中にかつて失ってしまったものを刻みこんでいるように思います。シンメトリーの調和と人を思わせるようなスタイル、釉薬(ゆうやく)や焼き方の研究など精神と技術が融合して行くようです。

やがて、作品は古代のキクラデス彫刻を影響を受けはじめます。最新の陶芸は、少しずつ古代に近づいていく、とても不思議な感じがします。美の不変性を作品として表し証明しているのかもしれません。それは、人生とは何なのか? 人の出会いとは何なのか? と言う哲学的な問いかけを自分自身に課していて、まじめにコツコツとその答えを探っているかのようです。

※パナソニック電工汐留ミュージアム(2010年6月26日~2010年9月5日)