Asagi's Art News





本当は見たくない… ~ ウフィツィ美術館自画像コレクション2010年09月19日 22時13分56秒

歴史あるウフィッツィ美術館の自画像コレクションに、日本人の草間弥生(1929-)、横尾忠則(1936-)、杉本博司(1948-)の作品が加えられたと先日話題になりました。そして、ヴァザーリ回廊という数キロにもおよぶ長い建物には、歴代のさまざまな自画像コレクションがあるそうです。

ウフィツィ美術館

このコレクションの中に自分の作品をどうしても加えたかったシャガール(1887-1985)は、なんと作成に9年をかけて、わざわざ作品をウフィッツィ美術館に持参したという伝説が残っています。ルネッサンスの巨匠たちと同じ場所に自分の作品を並べることは、たいへん名誉なことであり憧れであったのだと思います。

さて、展覧会は、その自画像コレクションの中からルネッサンスやバロックから現代までの代表的な作品から構成されていました。例えば、ミケランジェロの再来と言われたベルニーニ(1598-1680)やレンブラント(1606-1669)、マリー・アントワネットの肖像画を描いたエリザベート=ヴィジェ・ル・ブラン(1755-1842)、そして、執念のシャガール…もちろん、草間、横尾、杉本の作品も見ることが出来ます。

本来の作品とは異なる自画像は、客観的に自分を見つめるものあり、実験的試みをするものあり、ナルシストに徹するものありとさまざまです。それは、時代が変わっても変わらない個性なのかもしれません。自分自身は、いちばん身近なモデルであり、本当は見たくないものなのかもしれません。

ウフィツィ美術館
エリザベート・シャプラン「緑の傘を手にした自画像、1908」

会場でも人気があり気になったのは、エリザベート・シャプラン(1890-1982)です。大きな傘を持ちちょっと訳ありそうな表情でこちらを見ています。詳しくは判りませんが、イタリア印象派(マッキアイオーリ)の画家と思われ、色彩豊かな背景の風景がとてもすてきです。

しかし、この自画像で印象的なのは、やはり大きく描かれた緑の傘です。女性が日差しを避けるために傘をさすことは自然なことと思いますが、この傘が何かを語っているようにも思います。

心理学的に傘は権力や権威の象徴とされ、傘の扱い方で性格を読み取れるとも言われています。彼女は穏やか情景の中に傘に包まれるようにしてたたずんでいます。またこの傘の色ですが、緑なのですが青ぽく少しくすんでいます。緑は、安定や調和を意味していますが、青は内面に向かうイメージあります。

分析はあまりしたくありませんが、このときの彼女の心境を少し考えてみます。経済的にも環境的にも恵まれて絵の作成をしていたのでしょう。しかし、興味は自分自信の内側に向かっていて、冷静に自己分析をしているようにも思われます。

彼女は、家族とともにフランスからイタリアに渡り、ウフィッツィ美術館で多くの古典を学んでいるようです。その後、ルノワール(1841-1919)やド二(1870-1943)にも影響を受けてたようです。日本では、あまり情報が少ない画家のようで残念ですが、機会があれば彼女の作品を見つけてみたいと思っています。

※損保ジャパン東郷青児美術館(2010年9月11日~2010年11月14日)