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クルーベのりんご ~ 陰影礼讃2010年10月04日 23時49分13秒

陰影礼讃(いんえいらいさん)は、谷崎潤一郎(1886-1965)の随筆から引用したタイトルだと思います。谷崎は、 電灯がなかった時代の今日と違った美の感覚を考察して、日本は西洋とは違い陰影を好み、その中にある美を見い出すことで芸術を成立させてきたと論じています。

展覧会の解説では、足元や地面に落ちる人や物の「影」と、光がさえぎられた場所が薄暗く見える「陰」があると分析して、それらが多くの作品の中でどのように表現された来たを考察して行くそうです。

陰影礼讃

いつもの展覧会と違いかなり研究性の強い感じがします。しかし、そうは言っても、国立美術館4館のコレクションの中から選りすぐりの作品が見られるのですから、気楽に見ていきたいと思い出かけていきました。

展示作品は、アカデミックな絵画あり抽象絵画ありとジャンルは絞っていません。また、版画、写真、インスタレーションの作品まで揃えており、大変興味深いです。考察ポイントなども示していますので、学生さんがレポートを書くならばお勧めと言ったところでしょうか。

さて、展覧会ではいろいろと問題提起されていたのですが、今回はその議論よりも、気に入った作品をひとつ紹介することにします。それは、ギュスターヴ・クルーベ (1819-1877)の『りんご』です。写実主義の巨匠が描いたクルーベのりんごです。

陰影礼讃
ギュスターヴ・クルーベ 「りんご、1871」

西洋美術館(松方コレクション)の作品ですが、はじめて見る作品のように思いました。真っ赤ではなく形もまんまるで、りんごと判るには少し時間がかかりました。しかし、何気なく置かれている構成やりんごの赤と背景の緑がとても調和していて、安定感のある良い作品です。こんな作品が食卓のそばにあったらきっと楽しい食事になると思います。

画面全体が明るく、確かに西洋画にある陰影を排除する傾向にあるようです。しかし、見えるものを忠実に再現する写実主義なので、光に対しても正確に表現しようとしているのかもしれません。りんごの前後関係などは、影というよりも遠近感による色の見え方の違いようにも思います。左からの光に対する影はちゃんとあるのですが、陰影とは異なるものでしょう。

…考察はしないようにしようと思っていたのですが、やっぱりいろいろ考えてしまいます。そこが楽しいと言えば、それまでなのですが…こうした研究性のある展覧会もなかなか楽しいので、次回の企画を大いに期待したいと思います。

※国立新美術館(2010年9月8日~2010年10月18日)

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