Asagi's Art News





神がそこに宿っている ~ 第16回 秘蔵の名品アートコレクション展 平山郁夫 -平和への祈り-2010年08月17日 00時42分16秒

今年のホテルオークラのチャリティー展覧会は、日本画壇の重鎮として業績を残した平山郁夫(1930-2009)の回顧展です。院展を中心に活躍した平山は、シルクロードシリーズなどアジア各地の風景を日本画として作成、遙かな浪漫を漂わせ人気があります。

平山郁夫

さて、ホテルオークラと言えば、あまり出会うことで出来ない企業の所有する作品を中心に展覧会を行うことで知られていますが、今年も多くの作品が企業から提供されていていました。あまり目立たないですが、企業における芸術活動の貢献の一端を見る良い機会と思います。

平山は広島の出身であり、戦時中に勤労動員として働いていた広島で原爆投下に遭遇して被災します。この原爆体験は後の制作活動に影響しています。例えば、今回の展覧会にはありませんが、原爆後遺症が残る中で作成した『仏教伝来』などは、玄奘三蔵の苦悩を自身に置き換えいるようにも思います。

『仏教伝来』は、院展にも入選して、その後の制作活動の根源となりました。そして、あのシルクロードへとつながっていきます。もちろん、シルクロードの終着点である日本の風景もたくさん残しています。しかし、日本を描いても、そのスケール感はアジアという大きな流れがあり、とてもすばらしいものです。

今回は大きな屏風絵も数点展示されており、その中でも『月華厳島』は、日本独特の神秘性や威厳を感じることが出来ました。青い闇の中にぼんやりと輝く灯籠が、印象的で神がそこに宿っているように思います。青い静寂が支配する世界が拡がっています。

平山郁夫
平山郁夫「月華厳島、1993」

そして、青で統一され画面には、海との境がまったく判らず、あたかも厳島神社が空中に浮かんでいるように見えます。波の影が雲のように思えとても神秘的な空間を作っているのです。このような雰囲気が、日本の風景とは違って見える理由なのかもしれません。

※ホテルオークラ東京(2010年8月4日~2010年8月29日)