Asagi's Art News





神の世界 ~ アルプスの画家 セガンティーニ -光と山-2011年12月02日 21時18分24秒

東日本大震災の傷跡は、本当に大きくいくつもの展覧会が中止になってしまいました。もちろん、貸し出す側からしてみれば、放射能が大事な美術品にどんな影響を与えるか判らない状況となり、しかたがないことであると思います。

しかし、美術館も少ない情報の中から、日本が安全であることを訴え、交渉を重ねることで何とか展覧会を開くための努力をしてきています。そのひとつが、このセガンティーニ展です。予定よりも半年以上も経過しましたが、美しいアルプスの風景をやっと見ることが出来るのです。

セガンティーニ

ジョヴァンニ・セガンティーニ(1858-1899)は、イタリアの画家です。絵の勉強をはじめたのはミラノにいた頃で、ブレラ美術学校の夜学校に通いながら肖像画などのアルバイトで暮らしていたようです。しかし、伝統的な絵画手法に対する反感から、学校を辞めることになります。

そして、親しくなったモデルとの結婚を機にして、スイス国境に近いブリアンツァに移転します。そこから、アルプスの自然を描く画風が生まれることになるのです。印象派の画風も取り入れ、徐々に彼独自の風景を確立させます。そして、さらに高みを目指し、さらに山の上へと住まいを変えていくのです。

標高が高くなったことが原因かは判りませんが、彼の体調は悪くなってしまい、高熱から腹膜炎を引き起こし帰らぬ人になってしまいます。そんな、彼の人生を思いながら作品を見ていったのですが、山の高度が上がるたび命を削り、神の世界を目指し制作をしているような、何とも辛い感じを受けました。

アルプスの透き通るような青い空は、まさに神の世界に近づいた清らかな感じがする作品です。しかし、それとは少し異なる象徴主義的な作品も存在していて、透き通る空の変わりにどんよりとした、何か闇の部分が見え隠れするような雰囲気の世界があります。

セガンティーニ
ジョヴァンニ・セガンティーニ「虚栄、1897」

例えば、「虚栄」という晩年の作品は、彼の作品には珍しく裸婦が出て来て、しかも、彼女は蛇のような獣と何やら会話を交わしているようにも見えます。誘惑なのか、欲情なのか…人の持つ闇がそこに迫って来ているのかもしれません。

高所による低酸素による幻覚だったのかもしれません。美しい神の世界は、人が暮らして行くには多くの困難が待ち受けています。しかし、彼はそれを知っていても、やはり高みを目指すことを選んでしまったように思えるのです。

※損保ジャパン東郷青児美術館(2011年11月23日~2011年12月27日)

変わること ~ 第42回東京モーターショー20112011年12月12日 22時11分16秒

東京モーターショーが東京に帰ってきました。場所は、東京ビックサイトです。幕張メッセはとても大きな展示場で良いのですが、正確には東京と言うことが出来ず…付け加えれば、会場までの道のりがものすごく大変なのです。

東京モーターショー

地球温暖化に対する懸念、若者の車離れという危機にある自動車業界としても、何とか話題作りの起死回生としたいところなのだと思います。その効果があったのか、マスコミによる報道の回数が増え、連日入場者も増えて来ているようです。

海外、国内の自動車メーカーが、コンセプトカーを用意して魅力的なカーライフを提案します。いわゆるソリューションという形で、他のビジネスイベントと同じ手法であると言えます。また、女性コンパニオンを用意して、派手なパフォーマンスを行うことも古くからのアピール手法です。

確かに、男性を意識することは確かに大事ですが、自動車業界の状況を考えれば、このようなアピール手法が続くことに問題はないのか、検証することが必要な時期に来ているように思います。何を変えようとしているのか、何が変わらないのか、それがはっきり判るようにしなければいけないと思います。

東京モーターショー

東京モーターショー

デザインとしての自動車を考えた時にも、変えなければいけないこと、変えることが出来ないことをはっきりさせる必要があるのはずです。まだあまり意識されないことかもしれませんが、現在はガソリンを使う内燃機関から電気を使うモーターに変わる変革期にあります。

東京モーターショー

東京モーターショー

東京モーターショー

その変化に合わせたデザインが、いまの自動車に求められているのかもしれません。身近なものであるがゆえに変化が判ることはポイントとなるのです。CO2などの数値を見せられたとしても実感が出来ないのです。では、どうしたら良いのか? 答えはまだ見つからないようです。

東京モーターショー

東京モーターショー

東京モーターショー

しかし、本来、自動車が持っているスピード感、もうひとつの住みかとしての安定感は、コンセプトして外せない要素なのかもしれません。各メーカーは、その点は上手く表現できていて、よりスピードを求めるスポーツカー、室内や装備を充実した最上級仕様車など、得意分野で切り込む姿勢もみてとれます。

パーツを提供するメーカーのブースもあり、タイヤ、エンジン、エアロパーツなど総合メーカ以外の展示もあるのが、このようなイベントの楽しいところです。けして、デザインに妥協しているわけではなく、それぞれで個性を発揮することを望んでいます。

東京モーターショー

東京モーターショー

東京モーターショー

注目のコンセプトカーはやはり人気があり、その姿を確認するために列に並ばなければならないほどです。そのひとつは、コマーシャルなどで話題になったBMWの『BMW i8』です。現在までのスポーツカーの延長線上にあるデザインでありながら、映画に出てくるような未来感を持っています。

多くの人たちが美しいと思わせ、カメラの視線を独り占めです。ところどころに透明になりっていたり、その斬新さは動物を思わせる挑発的なスタイルです。もちろん、公道を走ることは出来ないとしても、その姿に触れてみたい、エンジンの響きを聞いてみたいと思わせる魅力を秘めています。

東京モーターショー

そして、もうひとつのコンセプトカーが、トヨタの『TOYOTA Fun-Vii』です。マスコミには取り上げられ話題をさらっています。車体の側面が液晶パネルになっていて、さまざまな情報を表示できるまったく新しい発想のもとに創られた一台です。

何がすごいのかも判らない、それが新しい提案なのだと思います。車であることすら必要がない…もはや車とは呼べないものを生みだそうとしている意欲を日本の自動車メーカーから提案されたことに、何だか嬉しくなってしまいました。

東京モーターショー

でも、いちばん気になったのは、紙ペラでしたが青いスーツにユダヤ教のかぶり物ようなものを身につけた「ドラえもん」のジャン・レノさん。どうして、こんなオファーを受けてしまったのか…心配です。

東京モーターショー

※東京ビックサイト(2011年12月2日~2011年12月11日)

マハ ~ プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影2011年12月15日 23時38分58秒

宮廷画家ゴヤとて映画が作られルほどの人物であるフランシスコ・デ・ゴヤ(1746-1828)。その代表作である『着衣のマハ』の来日は、何と40年ぶりとのことです。長い月日が経っていますが、スペインの秘宝が何度も東洋の島国にやって来ることは、本当にすごいことだと思います。

ゴヤ

絵の力によってすべてを手に入れた男がゴヤです。しかし、また失いものもたくさんあったようです。40才で国王カルロス3世によって宮廷画家の地位を手にいれるものの、病により聴覚を失うことなります。

ゴヤを擁護して最大のパトロンであり、マハのモデルとしても噂にあがるアルバ公夫人マリア・デル・ピラール・カィエターナ(1762-1802)は、権力闘争の渦に巻き込まれ謎の死を迎えてしまいます。そして、ナポレオン率いるフランス軍のスペインへ侵攻と、時代は彼を妬むかのように容赦がないのです。

しかし、『着衣のマハ』が描かれた時期は、ゴヤにとっては我が世の春となり、愛に満ちた傑作を残していくのです。『着衣のマハ』には、もうひとつヌードバージョンである『裸のマハ』がありますが、どちらが官能的であるかとの問いに多くの人は、『着衣のマハ』を選ぶと言います。

ゴヤ
フランシスコ・デ・ゴヤ「着衣のマハ、1800」

その謎は、彼女の前に行けばすぐに判ることでした。彼女のいる部屋に入った瞬間、視線に気付きます。そう、彼女の視線は常に見るものに向けられているのです。こちらから目をそらしても無駄です。彼女の視線は、そこにいる限り逃れることが出来ないのです。

もちろん、彼女の前にいるのは自分だけではありません。しかし、誰もが彼女の視線から逃れることが出来ないのです。だから、誰もがすぐに彼女の魅力の虜になってしまうのだと思います。だから、ゴヤはすべての愛と情熱を『着衣のマハ』に注ぎ込んだように思うのです。

手に入れられるものはすべて手に入れたつもりでも、本当にほしいものが手に入っていないことに気付くのです。そして、欲すれば欲するほど、それを手に入れることが難しいことに気付いたのかもしれません。、『着衣のマハ』は、その願いの象徴なのだと思います。ゴヤの願い…生きているうちもう一度会ってみたいと思います。

※国立西洋美術館(2011年12月2日~2011年12月11日)

新宿クリスマス2011 ~ 新宿テラスシティ イルミネーション'11-'122011年12月23日 21時45分20秒

都内のイルミネーションも規模が小さくなったりはしましたが、輝きはいつのように暖かく人々を迎えてくれます。新宿では、 カリヨンデッキ、モザイク通り、新宿サザンテラスを通して大小さまざまな飾り付けを見ることができます。

新宿1

そして、本来なら新宿サザンテラスから橋を渡り、タカシマヤタイムズスクエアに続くイルミネーションを見ることが出来るのですが、今年は残念ながらタカシマヤタイムズスクエアに輝きを見ることは出来ません。

すべてが元に戻ることを願っていますが、思い通りならないこともたくさんあることを認識しなければならないのでしょう。輝きはなくても希望の灯火を輝かせて来年を迎えたいと思います。

新宿2

締めくくり ~ 版画の彩展2011 第36回全国大学版画展2011年12月27日 22時20分22秒

いろいろあった2011年の締めくくりの展覧会として選んだのは、全国大学版画展です。とても地味ですが、未来をめざす若者の作品から元気がもらえると思ったからです。町田の国際版画美術館が出来てから毎年続いてる企画で、過去に何回か出かけたことある展覧会です。

全国大学版画展

いままで気がつかなかったのですが、展覧会の運営に関しても大学生が行っているようでした。美術系の大学だけでなく、教育学部や教養学部などの学科や短大、専門学校からもエントリーされています。

版画手法も木版、銅板、リトグラフ、シルクスクリーンなどさまざまであり、試行錯誤から表現される個性的な作品を見ることはとても楽しいです。版画は作成において制約もあり、あまり大きな作品を作ることは難しいと思っていました。しかし、展覧会ではその制約をものともせず、大きな作品がかなりたくさんあり驚きました。

全国大学版画展

全国大学版画展

表現方法もバラエティが豊富で、具象表現あり、抽象表現あり、その中間といったもの…中には立体表現という版画表現の新しい可能性を見せつける内容になっています。ただ、全体的に女子学生の作品が多いようで、これはだいぶ以前からの傾向ですが、男子学生ももっと頑張ってほしいものです。

全国大学版画展

全国大学版画展

エントランスでは、学生の作成した小さく手ごろな作品が販売されていました。なかなか良くできていて、素敵な作品も数多くありました。あさぎもせっかくなので、静物画のエッチングを1枚購入してみました。なすと豆が描かれている意味深の一枚、なかなか味のある作品で気に入っています。

※町田市立国際版画美術館(2011年12月3日~2011年12月18日)