Asagi's Art News





棘を隠す ~ 話の話 ロシア・アニメーションの巨匠 ノルシュテイン&ヤールブソワ2010年06月10日 23時04分35秒

ユーリー・ノルシュタインの展覧会は、4年ぶりの開催になります。今回は、数多くの原画やガラスに切り絵をして重ねるマルチプレーンの展示がメインとなっています。葉山という不便なところにある美術館ですが、電車とバスを乗り継いで出かけて来ました。

話の話


旧体制のロシア(ソビエト連邦)においては、自由に表現を行うことはできません。しかし、表現する本質を何かで包み込んで、簡単には判らなくしてしえば可能となります。これは、ロシアを拠点に活動してきた芸術家の多くが試みたことで、誰もがそれを良く心得ていました。

ノルシュタインはヤールブソワと組んで、アニメーションを武器に本当に伝えたいことを発表してきました。それは、昔からの民話や可愛らしい動物を登場させて、棘を隠すことで世の中に問いかけをするのです。

独特の雰囲気を出すマルチプレーンの技法を開発したことも、棘を隠すことに一役買っていのです。マルチプレーンは、いま話題となっている3D技術と同じように、アニメーションに奥行きを持たせることができます。また、何層に重なるガラスにより画面をよりソフトすることができます。

『話の話』は、もう何度も繰り返し作品を見ていますが、隠された棘の全てが判ったわけではありません。古い言い伝えや教訓と解釈することもできますが、当時のロシアの社会情勢と重ねていくと単なるおとぎ話にはならないはずで、もう少し知識を増やす必要があるようです。

しかし、戦争に加担すること、強欲に溺れる者、それらは、恐怖、怒り、あきらめなどネガティブな印象を与えます。そして、やがて訪れるソビエト連邦の崩壊を暗示しているのでしょうか…。とても奥の深いことであるような気がします。

ノルシュタインは、日本についてはとても好意に思ってくれています。彼の作品に松尾芭蕉が登場する『冬の日「狂句 木枯らしの身は竹斎に似たる哉」 』があります。これは、俳句の世界の一場面を少し明るいタッチで表現しており、ロシア時代の作品とは少し違うようです。

現在の日本では、商業的なセルアニメーションばかり注目されています。軽く伝えるべきものの少ない作品を消費してる感じを受けます。本来あるべきアニメーションの力を、彼の作品を通して知ってほしいと思っています。そして、まだまだ彼は現役ですから、すばらしい作品を作り続けてほしいと思います。

※神奈川県立近代美術館 葉山(2010年4月10日~2010年6月27日)