Asagi's Art News





それぞれの想い ~ 自画像の証言2007年08月15日 22時45分17秒

金刀比羅宮の宝物を見たあとにふと目に入ったポスター。自画像という言葉に立ち止まりました。まったくのノーチェックだったのですが、藝大の卒業生による自画像展でした。

自画像の証言

さらに良くみると無料で見られると書いてあるので、とりあえず陳列館という建物に入りました。明治31年(1898年)から現在まで5000人以上が卒業しているとのことで、今回選りすぐりを160点とのことです。

会場は1階と2階で、下には古い作品を上には新しい作品を展示していました。巨匠と言われる人の作品もありますが、やはり若い頃の作品なので少し雰囲気が違います。とてもエネルギッシュな感じがするところが良いです。

自画像の課題は、洋画の重鎮である黒田清輝が学生に課したものだそうです。本物はありませんでしたが、藤田嗣治などはその課題に対して大いに反発を持っていたとのことです。

しかしながら、自画像の課題提出なしには卒業ができないらしいので、しぶしぶ描いた人もちらほらいたようです。また、これが自画像なのと思うような奇抜な作品を提出する人もいます。いずれにしても提出した作品は、後世に残されていくわけですからそれぞれの想いがあるのでしょう。

あさぎのデッサンの先生も藝大出身で、自画像を置いてきたそうです。先生曰く、「大学は最初から自画像の代金を授業料から引いているのだからしかたない・・・」と言っていました。ちなみに先生の専門は抽象画で、まともに描いたかどうかは話してくれませんでした。

※東京藝術大学大学美術館

美術論? ~ 森村泰昌 美の教室、静聴せよ2007年08月26日 23時56分41秒

コスプレおじさんのイメージが強い森村泰昌ですが、はじめての大掛かりな個展とのことでした。インスタレーションと言うには、少し理屈っぽい美術論を展開する珍しい展覧会でした。

森村泰昌

まず会場に入ると鑑賞にあっての細かい指示があります。彼は、今回の展示を学校の講義と位置づけ、ホームルームからはじまり1時間目から6時間目と講義をして最後にテストまで強要します。

音声ガイドをホームルームの前に渡され、彼の講義を聞きながらの作品に対面していきます。美術は自由に見るのと考えられていることに疑問を投げかけ、製作側の意思通りに見せることが目的のようです。

彼自身が作品の中にあって、論理で知性を揺さぶります。フェルメール、ゴッホ、ダ・ヴィンチと美術史の中でも重要とされるものを選んで、この角度から見て、こうように感じるべきと語りかけます。

確かに、鑑賞のしかたを指示されるのは、はじめてです。妙に違和感があって逆におもしろものになっていると思います。最後に三島由紀夫の市ヶ谷の演説に行きつくのですが、あぁ、なるほどと感じさせる知のインスタレーションがそこにあります。

最後のテストですが、最近よく目にする美術検定のような問題が出題されます。正解しても不正解でも卒業出来るようです。ちゃんと卒業証ももらえます。ここまで徹底して鑑賞者に介入する姿勢は、評価に値すると思います。

※横浜美術館

海の男 ~ アルフレッド・ウォリス展2007年08月29日 23時32分27秒

海に面した新しい美術館です。横須賀ですが、どちらかと言うと浦賀の方が近いのかもしれません。京急で馬堀海岸に出て、さらにバスで観音崎京急ホテル前までちょとした小旅行です。まだまだ日差しも厳しい夏の午後、海に貨物船がゆっくり進んでいます。

横須賀美術館

今回の展覧会は、そんな海を感じさせてくれるアルフレッド・ウォリスという、素朴な船の姿を描くイギリスの画家でした。彼は、70才を過ぎてから絵を描きはじめた元船乗りです。もちろん、独学ですが海を愛した優しい暖かさが作品から伝わってきます。

同じ時代、フランスでは、エコール・ド・パリの画家たちの華を咲かしていました。しかし、彼はそんなことさえ知らず、自分の好きな世界を描いていたのでしょう。画材さえ選ばず、キャンバスはどこにでもある厚紙、絵具はペンキです。

若い頃から共に暮らしてきた海が大好きで、残された人生を謳歌しているかのようです。誰よりも多くの海の表情を知っている。優しさも、厳しさも、すべてを知っているからこそ描けるのかもしれません。

横須賀美術館
アルフレッド・ウォリス「青い船、1934」

画面いっぱいに描かれた船には、海の男のロマンが満ちています。仕事場であり、家庭であった海・・・一枚一枚心に刻みながら時が満ちるまで描き続けるのです。

※横須賀美術館