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演出写真 ~ 浜口陽三・植田正治二人展-夢の向こうがわ2010年07月31日 00時05分21秒

ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションは、はじめて訪れる美術館でした。地下鉄水天宮前からすぐの首都高を見上げるところにひっそりと建っています。入口がカフェなので、美術館というよりも喫茶店のような感じのする美術館です。

ミュゼ浜口陽三

版画家の浜口陽三(1909~2000)の作品を展示するために造られた美術館で、彼の作品は常設的に展示され、他には妻であり版画家の南桂子(1911~2004)の作品なども所蔵しているとのことです。ちなみに、ヤマサとはヤマサ醤油のことで、浜口がヤマサ醤油の創業家出身であることからスポンサーになっているようです。

今回の展覧会は、浜口と写真家の植田正治(1913~2000)の二人展になっています。展示室は1階と地下にあり、1階に浜口の作品、地下に植田の作品をセパレートで展示するようにしていました。版画と写真で異なる媒体であるため別々の展示としたのかもしれません。

浜口の作品は夏場を意識した果物が印象的で、彼独自のカラーメゾチントによる黒と色の調和が心地良く感じられます。『さくらんぼ』が代表作であるように思われますが、この『西瓜』などは、暑かったこともあってとても美味しそうです。

浜口陽三
浜口陽三「西瓜、1981」

浜口の作品は以前から知っていたのですが、植田の作品は今回が初めてです。展覧会に出かけるきっかけも植田のちょっとシュルレアリズムぽい感じの写真が気になったからでした。戦後から高度成長期にかけて撮られた作品とは思えないほど、生々しい感じのする写真です。

植田は鳥取に生まれたこともあり、鳥取砂丘で撮影された作品もあります。作品の評価は世界的にも高く「演出写真」などと呼ばれています。特にヨーロッパでは、彼の作品をそのままUeda-cho(植田調)と紹介されることがあるそうです。

人物は何か意図的なポーズや表情をさせているような感じがあり、風景ははじめから狙った構図があるような感じがしてくるのが不思議です。コントラストがはっきりしていることで、影はより黒く、光はより白くなることで絵画のような減り張りを作ることが出来るのかもしれません。

砂丘を背景にした『妻のいる砂丘風景』などは、どこかで見たような…キリコ? ダリ? そんな世界観を感じることができます。もちろん、植田も同時代の彼らを意識しているとは思いますが、これは本当の世界をカメラを使って撮った現実の世界です。

植田正治
植田正治「妻のいる砂丘風景(Ⅲ)、1950」

写真の持つすごさを感じることが出来ます。しかも、作品は半世紀も前に撮られた写真なのですから驚きと言えます。比較はしませんが、浜口とは黒の持つ静寂さで一致しています。版画と写真の組み合わせは意外とおもしろく、興味深い二人展に仕上がっているようです。

※ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション(2010年7月3日~2010年9月26日)

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