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酔って候 ~ 鴨居玲展2010年08月02日 00時26分08秒

順風満帆の人生でないことも稀ではないのです。賞賛を受け華やかな将来が見えたとしても、時に挫折をして自らの退路を閉ざすこともあります。画家は特に意識をしていないのでしょうが、その過程でひとつひとつ作品として残してきます。

鴨居玲(1928~1985)もそのひとりなのでしょう。社会を見つめることで、「喜び」「希望」「沈黙」「不安」「絶望」など少し係わりたくない部分を絵に残し、彼自身の生きた過程をの残しているのです。

鴨居玲

展覧会は、鴨居の初期の作品から煮詰まってしまった晩年までの作品をコンパクトにまとめています。代表作であるスペインでみた酔っぱらいや自画像があり、スケッチやデッサンなども展示されています。

醜い姿の酔っぱらいは、哀愁と絶望感を画面から漂わせます。社会に対してではなく、自分自身への怒りとやるせなさが単調な背景の前に存在感を放っています。思い通りにならない…鴨居にとっては思い通りに描けない苦しみのようです。

鴨居玲
鴨居玲「酔って候、1984」

この『酔って候』は、彼が自ら命を絶つ前に再度描いた自画像とも思える作品です。形にならない想いはあるが、どうにもならない現状に酒の力を借りることで紛らわすのでしょうか。鴨居はこの作品の2年前に真っ白なキャンバスを前にする自画像「1982年 私」を描きます。

描けない画家にとっての恐怖である何もない真っ白なキャンバスが中央に光る衝撃的な作品です。もがき苦しむこともまた人生、彼だけではなく多くの人が通る道のひとつです。しかし、その想いを残せるのが画家なのかもしれません。

※そごう美術館(2010年7月17日~2010年8月31日)

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