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何かが欠けている ~ ヴェネツィア展2011年11月09日 23時34分54秒

アドリア海沿岸のラグーナ(潟)に出来た海上都市であるヴェネツィアは、5世紀頃にゲルマン人のイタリア侵略から逃れる人々の流入によって、歴史がはじまったと言われています。周辺列強から支配や干渉を受けながらも、ヴェネツィア共和国として都市国家を発展させるのです。

ヴェネツィア展

東ローマ帝国やイスラム諸国との交易により、利益を得ることで豊かな芸術文化が花開くことになります。そして、15世紀にはじまるルネッサンスをいち早く吸収して、その後の芸術に影響を与えていくことになります。

今回、ポスターにも威厳をもって登場している『サン・マルコのライオン』は、まさにヴェネツィア文化の黄金期の象徴と言えます。ちなみに、サン・マルコのマルコとは、新約聖書の4つ福音のひとつ(マルコの福音書)を書いた聖人のことです。9世紀の十字軍のアレクサンドリア侵攻により、マルコの聖遺物がヴェネツィアに運ばれたことが大きく関わっているようです。

いつの時代も戦争と芸術は、密接な関係を持って築かれていきます。ヴェネツィアの芸術もまた例外ではないのです。展覧会では、絵画の他に貴族や商人の屋敷の様子、身につけていた服、装飾品の展示もあります。とにかく豪華で妥協を許さない美の追求を見てとることができます。

そして、いちばんの注目は、謎の絵画として有名なヴィットーレ・カルパッチョ(1455-1525)の『二人の貴婦人』の特別展示です。この作品が注目される理由は、近年、この作品がトリミングをされていたことが判り、上部にあったとされる『ラグーナでの狩猟』が発見されたからでしょう。

ヴェネツィア展
ヴィトーレ・カルパッチョ「二人の貴婦人、1490」

絵画ファンだけでなく歴史ファンも巻き込んでのミステリーは、大変興味深いものです。カルパッチョは、初期ヴェネツィア派の画家であるのですが、まだまだ明らかにならない謎の画家です。ただ、ウィキペディアなどによると『レオナルド・ロレダン 』などの作品を残したジョヴァンニ・ベリーニ(1430-1516)と同じ師匠の元で絵を学んでいるようです。

さて、『二人の貴婦人』ですが、上部の『ラグーナでの狩猟』が見つかるまでは、高級娼婦を描いたとされることが定説だったようです。彼女たちの服装であるとか、周囲に描かれいる意味ありげなものから判断されていたようです。

確かに、いまのような情報のない段階で説明をされれば、何となく納得できるようにも思います。ただ、じっくり見ていると彼女たちから妙な感じを受けるので、その違和感から新たな発見を導いたのかもしれません。何かが欠けている…この絵が発するオーラのようなものだと思います。

現在、『二人の貴婦人』はヴェネツィア市立美術館、『ラグーナでの狩猟』はロサンゼルスのJ・ポール・ゲティ美術館に所蔵されていて、これらがひとつになる機会はないようです。なので、たくさんの人がやっているように、ここで2つ絵をつなげてみたいと思います。

ヴェネツィア展
ヴェネツィア展

どうでしょうか? なかなか良い感じです。しかし、やっぱり何かが欠けているようです。細野不二彦(1959-)のギャラリーフェイク(15巻)という漫画の中で、この作品の話が出て来ます。そして、実は左側に存在すべき作品が見つかったと展開します。芸術新潮の特集などを参考にしているようですが、ミステリーの答えにかなり肉薄していると思いますので、興味がある方はご覧頂くと良いでしょう。

※江戸東京博物館(2011年9月23日~2011年12月11日)

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